――持ってけよ。好きなだけくれてやる――(本文より) 「んん、あ…っ」 総悟の声は、もう殆ど出ていない。 焦点を結ばない瞳からは、とめどなく涙が溢れていた。 既に「もう駄目だ」「もう嫌だ」と懇願されているのに、今も俺はその体の中にいる。 動きを止めることなく、しかし、これでも己を抑えていた。 思いのままにしてしまえば、総悟を壊すに違いない。 なんともありがちな溺れ方だ。 簡単に壊れる訳もないとは思うが、壊す訳にもいかない。 だが。 総悟が壊れて、俺に抱かれるだけになってしまえば、苦しまずに済むのかもしれない。 開かれていた屯所の宴会で、今夜、総悟は珍しくはしゃいで隊士たちとよく笑っていた。 何がそんなに楽しいのか。 俺は大して強くもない酒を煽り続け、気づけば総悟を抱いていた。 何時、総悟を自分の部屋に連れ込んだのか、何度、絶頂を迎えさせて、迎えたのかも解らなかった。 「うあ、あああ…っ」 掠れた声で啼く総悟が達して、くたりと体を弛緩させる。 その肢体を貪り尽くしたい気持ちを堪え、総悟を抱き締めた。 「ひじ、かたさ…?」 訝しがる総悟が、力の入らない両手を俺の背中に回す。 ああ、もっと優しく、してやりたいのに。 ああ、いっそ壊れて、しまえばいいのに。 此処の所こんな日が増えていることは、抱かれる総悟が一番解っているだろう。 きっかけは、俺の誕生日だった。 総悟はいつものように俺に抱かれたのだが、最中に泣き出して「コレしか見つからなかった」と言った。 そして「俺でイイですかィ?」と何度も何度も俺に尋ねた。 その日から、俺は今まで以上に貪欲に総悟を求めるようになった。 あんな風に急に、素直になるからいけないのだ。 突然、綺麗なままでいることを見せられて、俺の黒い欲望で穢したくて堪らなくなった。 それでは総悟を壊してしまう、そう恐れつつ。 思いながら、俺は亜麻色の髪に顔を埋めて目を閉じた。 ――ばかなおひとだ。 何かを言われたが、よく聞こえなかった。 * 梅雨の鬱陶しさが漸くなくなってきたと思ったら、今度は暑さがやってくる。 クーラーの台数と部屋の数の釣り合が取れていない屯所では、風通しがマシになる夕方、広間に人が集まりやすい。 サボリ常習犯の住処になっている。 更に今日はそのサボリ常習犯は非番なので、広間でごろごろしているだろう。 その場所に、進んで寄りつける筈もない。 朝、目を覚ませば総悟の姿は既になく、俺は今日、総悟と顔を合わせていなかった。 もっとも、合わせる顔も持っていない。 また同じように、総悟を抱くのだろうか。 止めることができない思考を振り払うために、外へ出ようと思った。 飲み過ぎた所為でこの時間になっても尚、ぐらぐらする頭をすっきりさせるためにも丁度いい。 俺は山崎をとっ捕まえて近藤さんと総悟への暫しの不在の伝言を頼むことにした。 「え? でも副長、今日は遅くならない方が…」 「は? ちぃと気分転換するだけだろ?」 女子高生でもあるまいし、遅いも何もあったモンじゃない。 大体、昨日無駄な宴会などを開くから…いや、それは言い訳か。 「違いますって! 今日は――…」 言い募る山崎を無視して、俺は屯所を後にした。 ズキズキと痛む頭を抱えながら、かぶき町を歩いていると、よりによっての相手に出会す。 「多串くんじゃん」 「誰が多串くんだ! この腐れ天パ!」 相変わらずやる気のない目をした万事屋が、少し不思議そうな顔で俺を見た。 「何、お前、二日酔い?」 「だったら悪ぃのかよ」 いつもの通りの応酬をしようとしたが、俺の方にもやる気がない。 すると万事屋は、にたり、と笑って、飲み直せば治るだろうなんぞと、俺を近くの屋台に引っ張って行った。 陽は暮れてきているため飲むこと自体に、時刻としての問題はないのだろうが、俺は隊服を着たままだ。 まさか本当に飲むワケにもいかず、ウーロン茶を口にしていると、万事屋がふと後ろを振り返る。 「あっれぇ。沖田くんまでいるの?」 ぎくりとした。 万事屋の視線を辿ると、確かに其処には総悟がいる。 薄藤に茶色の袴姿は、口さえ開かなければ髪の色も相まって、少女人形のようだ。 …と、思ったが、同時にマズイ所を見られた、とも思った。 サボっている総悟をいつも怒鳴り飛ばしている俺がサボリの真っ最中なのだ。 斬り掛かられるのは何とかなる。 しかしバズーカで屋台が吹っ飛ぶのは阻止しなければ。 そんなことを考えていたのだが、総悟はその場から一向に動こうとしなかった。 「総悟?」 小さく呼び掛けてみても、俺をじっと見つめたままだ。 何の感情も表さない赤い瞳が、徐々に俺を追い詰め始めた。 「沖田くん?」 俺と同じように万事屋が総悟に声を掛けた。 だが、総悟は俺たちに背中を向けて歩き出す。 現れた時と同じ唐突さに、思わず俺と万事屋は顔を見合わせた。 「沖田くん、どーしちゃったの?」 「知るか。俺ァ、もう行くからな」 席を立つ俺に万事屋が視線を寄越す。 「あ、ごちそーさん」 「…そう来ると思ったぜ」 溜め息と共に勘定を済ませると、総悟と同じ赤い瞳が此方を見ていた。 「やけに素直じゃねーの。お宅ら、どーしちゃったワケ?」 「うるせぇ」 風が出てきたのか。 屋台の軒先に吊るされた赤提灯が、ぶらぶらと揺れていた。 万事屋と別れた俺は、もう少し風に当たろうと、屯所までの道を遠回りすることにした。 大通りを抜けて裏道に入り、マシになってきた頭痛にほっとしながら、煙草を銜える。 流れる紫煙はいつの間にか降りた帳の色に溶けて消えていく。 火を点けたばかりで勿体ない。 俺は銜え煙草のまま刀の柄に手を掛けた。 「散歩もできねぇご時世か」 漏らした言葉と同時に、三人が一気に斬り込んで来る。 愛刀で受けながら視線を走らせると、まだ数人が控えているのが解った。 合わせるとそれなりの人数になるだろう。 ざっと見る限り人相書きにあるような人物はいなかった。 烏合の衆であるならば、この中にいる頭を押さえれば、一件落着――…。 最初の三人の相手は終了させたものの、煙草を落として舌打ちする。 囲まれた。 まあ、斬り進めて一番後ろに辿り着くという方法でも、一件落着――…。 しかし、刀を構え直そうとした所へ、銃声が響いて足元の土が跳ね上がった。 「飛び道具まで持ってンのかよ」 此処まで来れば、俺を生け捕り、という訳ではなさそうだ。 現に、斬り掛かって来た三人に常より時間を取られたのは、異常なまでの殺気があったからだった。 軽く息を吐く。 マズイのかも、しれない。 以前、見廻り組の佐々木と遣り合った時にも、刀と銃の組み合わせには手を焼いたのだ。 「クソ」 右から斬り掛かられて、其方の相手をしていれば、当然左から来る。 前を相手にすれば後ろから近づかれる。 だからと言って前後左右だけに気を取られていると、飛んでくる弾に当たるだろう。 ガンッ。 嫌な音と振動が刀を伝わった。 避けていたのに鍔迫り合いになったのだ。 早めに一度離れなければと思ったが、見事に足を止められてしまう。 「…ッ」 マズイだろうな。 ――こんなことなら。 案の定、奥の人物が銃を構える。 ギ、と刀が音を立てた。 ――こんなことなら、壊しておけば。 だが、次の瞬間に聞こえたのは、銃声ではなく、つんざくような悲鳴だった。 薄藤色は夜の闇に、仄かな青白さを添える。 「総…」 壊しておけば良かったと、たった今思ったのに、袂を翻して刀を滑らす総悟で心が満たされる。 此処からは表情は見えないが、多分、いつものような無表情で斬りまくっているのだろう。 俺は取り敢えず目の前の体に蹴りを入れて距離を取り直した。 「オイ! 総悟、止まれ!」 刀を振るう総悟は、あれだけの抱かれ方をしたとは思えない俊敏さだ。 しかし斬り方からして苛ついている。 「総悟、止まれって!」 俺を取り囲んでいた浪士たちは、皆、一歩も動けないまま、その場に崩れた。 「一人くれぇ残さないと、情報取れねぇだろが」 「銃持ってたのが、頭だろィ」 期待を裏切らない冷たい声が聞こえる。 「ソイツを潰しちまったンだ。あとは下っ端で何も知らねェでしょ」 総悟の言う通りなのだが。 刀の血を懐紙で拭って鞘に収めながら、総悟が俺に近づいて来る。 「手錠貸してくだせェ」 「あ? ああ」 全員斬り殺した訳ではなさそうだ、と、俺は持っていた手錠を総悟に差し出した。 すると、総悟は手錠ごと俺の手を掴んで自分の方へ思い切り引き寄せる。 がちゃん。 ずしりと重くなる右手。 「…なんの真似だ?」 「アンタが酷ェから」 俺を、ぎり、と睨んだ総悟は屯所に連絡を入れると、手錠が掛かった俺の右手を引いて歩き出した。 奇妙な安堵感が湧いてくる。 そうだ。 繋いでおけ。 俺がお前を壊す前に。 繋いで、手を伸ばせないようにしておいてくれ。 動いているお前が、好きなんだ。 「総悟ォォォ!」 屯所に戻った俺たちを迎えたのは、近藤さんのその声だった。 総悟をひしっと抱き締める近藤さんは涙さえ浮かべている。 「何処行ってたんだよー。お前の誕生日の宴会、できなかったじゃん」 その言葉に、俺は思わず目を見開いた。 「すいやせん。土方さんが襲われてたンで」 「トシが? え? さっきの連絡じゃ、そこまで言ってなかったよね?」 「大丈夫でさァ。ほらピンピンしてるでしょ?」 仲良し親子の間で交わされる会話は、俺の耳には殆ど入ってこない。 だから山崎が「遅くならない方がいい」と言っていたのか。 「そんなんじゃ、トシも総悟も疲れただろう?」 近藤さんが俺たちを見比べる。 「早めに風呂に――…?」 入った方がいいと言いたかったのだろうが、言葉は途切れ、近藤さんの頭は傾いた。 「どうしたんです? 近藤さん?」 「イヤイヤイヤ! なんでトシに手錠掛かってんの!?」 「ああ。コレですかィ。土方さんがSMプレイしたいって言うンでさァ」 「そっかぁ。総悟とトシは仲良しだなァ! 宴会は明日しような」 がはは、と笑う近藤さんに、総悟が笑みを湛えて礼を述べている。 いや、近藤さん、スルーしちゃなンねぇトコ、スルーしてねぇか? ツッコミたかったが、俺を一瞬だけ見た総悟の、その冷め切った視線に体が固まる。 結局、じゃらじゃら音を立てながら、俺は自分の部屋まで総悟によって連行された。 途中、0時を回った掛け時計が目に入る。 ――総悟の誕生日は、過ぎていた。 総悟は、俺を突き飛ばして室内に押し込み、襖を、たん、と閉めた。 まったく読めないその行動に、俺はよろけただけで何をすることもできない。 仕方なくその場に腰を下ろそうとすると、俺の背後に回った総悟が手錠を引っ張った。 がちゃり、と左手にまで掛けられた手錠。 俺の両手は後ろ手に拘束され、動きがかなり制限されることになってしまう。 「巫山戯てンのか?」 言った俺を総悟が再び、どん、と押した。 不自由な体は傾いでしまい、総悟ごとその場に倒れ込む。 「アンタが、酷ェから」 「…悪かった」 不機嫌の理由は、誕生日を忘れていたことなのか、最近の抱き方なのか。 どうにしろ俺が悪い。 俺の上に乗ってぺたりとくっついている総悟は、胸の辺りに顔を押し付けて表情を隠している。 「総悟?」 「……」 「何でもしてやるから、コレ外せ」 「何でも…?」 漸く顔を上げた総悟は、年齢よりも幼く、子供じみた目をしていた。 「副長の座とか、死ぬのはナシだ。ほらコレ」 俺は努めて平素を装って言葉を選び、後ろを振り返りながら、じゃらりと手錠を鳴らす。 しかし次に総悟を見た時には、自分が間違ったコトを口にしたのではないかと、思った。 総悟が、口角を上げる。 「手はそのままでさァ」 白い手が俺の隊服のスカーフに掛かった。 「じゃ、どうすンだよ」 見下ろしてくる総悟は、先程の子供の貌とは打って変わって、嫣然とした笑みを浮かべている。 「アンタを、俺の好きに、させてくだせェ」 そう言って総悟は、俺が言葉を発する前に唇を重ねてきた。 総悟からは滅多に口吻けてこないこともあって、ソレは非常にたどたどしいものだ。 好きにさせろ、というのは俺の方が女役になるのだろうか、と恐ろしい想像をしかけたが、それは違うと何故だか解った。 ぎこちない動きをする舌を絡め取って口吻けを深くする。 「んぅ…」 途端零れ落ちる声。 刀を握らせれば見事な動きをする手が、今は不器用に俺の隊服のジャケットを脱がせている。 ベストは面倒なのか、口吻けを続けたままで、シャツのボタンを外しにかかった総悟は、唇を首筋へと移動させてぺろりと其処を舐めた。 ちくり、と痛みが走って、これは痕がついたなと思う。 俺の上に寝そべって、総悟はそうやって暫くじゃれていた。 優しく、されたいんだろう。 「好きにさせてくれやすかィ?」 じゃら、と手錠が鳴った。 優しく。 「どうしてぇンだ?」 緊張の所為か、少しだけ喉が渇いたと思いながらも、俺は総悟の問いにほぼ肯定の答えを出す。 総悟は、また「アンタ、酷ェ」と呟くと、体を起こして、おもむろに袴の紐を解き始めた。 衣擦れの音がやけに大きく聞こえるのは部屋が静かな所為だと言い聞かせる。 放られた袴を見ながら、不自由ながら俺も起き上がった。 「アンタがすると言ったら、手錠を外してやりまさァ」 「何を?」 あられもない姿になっている総悟に、俺はいつもよりも遥かに強く欲情している。 先程、刀を握ったことも手伝って、昂ぶっているのだろう。 総悟が望むように、優しく抱けるのかの保障はまったくできない。 寧ろ手酷く扱う可能性の方が高いくらいだ。 思っていると、総悟が静かに俺を見つめて言った。 「本当に俺にしたいコトを、最後までしなせェよ」 どくり、と心臓が鳴る。 「…無理だ」 絞り出すように総悟へ返すと、途端、強く頬を張られた。 「アンタの誕生日、俺はアンタにきちんとくれてやったンだ」 総悟の赤い瞳が俺を射抜く。 確かに俺は、自分の誕生日、いつもより欲しかった分だけ総悟を貰った。 だが、その時と、今の俺は確実に抱えているものが違うのだ。 「だから今度はアンタをきちんと貰いやす」 「できねぇ」 きっぱりと言い切る総悟に俺もきっちり言い返す。 「しなせェ」 「できねぇっつってンだろが!」 したいようにしろ? そんなことをしようものなら、お前が壊れてしまうじゃないか。 「土方さん」 「駄目だ」 総悟は、一体何を言ってるんだ? 混乱した頭でも拒絶しなくてはならないことだけは解った。 「土方さん!」 「頼む。聞き分けてくれ」 再び俺に平手打ちを食らわせた総悟が、自分の指先を咥える。 ぴちゃり、と音を立てて濡らされていく指が、次に何をするのかなど、訊かなくても解っていた。 それでもその手を後ろへと回した総悟に言わずにはいられない。 「お前何して…」 「アンタと、するンですよ」 「駄目だ!」 強い否定を放った瞬間、指が沈んだのか、総悟の眉が切なげに寄った。 「う、ん…んっ。するって、言いなせェよ…っ」 「しねぇ」 「アンタ、酷ェ」 「解ってる」 解りきっている。 見境なく、壊しかけるほどに総悟を扱うのだ。 それなのに、こんなモノが欲しいと言うのか? こんなモノが――…。 『俺、こんなのしか…』 『イイ、んですかィ? 俺で』 まさか。 「だって、同じモノが欲しいじゃねェですかィ」 「なんで…そんな思考になるンだよ…」 息を吐き、少しずつ手を動かして自分を解そうとしている総悟に、劣情が込み上げてくる。 「総悟」 「するって…言いなせ…。ん、う」 「あんな風にされといて、どうして」 「あっ。アンタが、旦那と…うあっ」 「俺がお前の誕生日に万事屋といたのが気に入らなかったのか?」 いつも、旦那旦那と万事屋にくっついて回っているのはお前じゃないか。 ほら、またこんな風に素直になる。 俺を凶暴にさせる燃料を注ぐ。 「ひじかたさ…ん!」 ――降参だ。 「覚悟、できてンだろうな。総悟」 総悟に尋ねる、というよりも、己に尋ねているというのが正しいのかもしれない。 こくこくと頷く総悟が、いきなり大きな声を上げた。 中のイイ場所に触れたのだとすぐに解る。 同時に総悟の体が、座ったままの俺の上で跳ねた。 「もうイったのか?」 後ろだけで? と畳みかけると、荒い息を繰り返している総悟が俺の胸にばふっと凭れてきた。 俺に抱きつくようにして、後ろ手に掛かっていた手錠をかちゃりと外す。 その音に合わせて、俺は理性の鍵を解いた。 「好きに、させてくれやすかィ?」 「持ってけよ。好きなだけくれてやる」 そう言うと、総悟が凄絶なまでに艶めかしく、笑った。 あんなに静かだと思っていた部屋だったが、笹にだろうか、風が渡ってざあっという音が流れ込んだ。 「ん、ああ。あ…っ」 細身の体が下になるように体勢を入れ替えた俺は、まだ痛みがあるだろうと頭では解っていてもすぐに後ろへ指を咥えさせた。 丁寧に、優しく、そう思うのに、やはりどす黒いものが湧き起こる。 確かに万事屋と一緒にいた。 それが厭だと、今日は厭だと、愚図る総悟が悪いのだ。 未だソコは解れきっていない。 それでも俺は早急に指を引き抜いて、自分を宛がった。 「…っ」 流石に総悟が怯えた目をする。 見て見ぬフリをして、腰を進めた。 「く、うぁ――…」 悲鳴の後半は唇で塞いだ。 可哀想な声が途切れた瞬間に唇を離して、馴染むのも待たずに総悟のナカを蹂躙する。 「んうっ。あ、う!」 「悪ぃ。痛ぇ、だろ?」 総悟がぱさぱさと亜麻色の髪を散らして顔を横に振った。 「平気、でさァ…あ! んんっ」 嘘だ。 こんな風にされて、平気なワケがない。 動くのを止めようと俯いた俺に、総悟が息を切らせながら小さく声を掛けてきた。 「したいように、しなせェ」 そうは言っているが、体がついてこないのだろう、総悟の腕は俺の胸を押し返すように突っ張っている。 俺はその手を両方とも取って、総悟の頭の上で纏めた。 繋がっているため、俺が少し動く度に、あ、という声が漏れる。 「こんなのが、欲しいのかよ」 一切抵抗しない総悟は即座に頷く。 俺の中で何かが崩れていく音がした。 ひと思いにトドメを刺す。 そんな動き方をしたと思う。 「ん――ッ」 片手を使って総悟の頭上でその両手を押さえ、もう片方の手で総悟の口を塞いで悲鳴を殺す。 ぎゅうっと目を瞑った総悟の頬に涙が伝った。 「ん、んん!」 くぐもった声しか出せない総悟の奥まで突いて、引いて、また突く。 薄らと開き始めた赤い瞳は、ぼうっと彷徨っている。 怖くなった。 総悟の、視線が、定まらない。 「んんんんんん…!」 壊すのか。 総悟が背を反らせて、白濁を飛ばす。 それでも俺は総悟を揺さぶることを止めなかった。 したいようにしろ、などと言われたら。 こうして壊してしまうじゃないか。 「んんんんんん…っ」 壊して――。 そんな思考に囚われて、只管総悟に突き挿れていたが、ふと総悟の声がおかしいことに気づいた。 「んんんんんん…」 同じ形を何度も繰り返す。 それが。 『ひじかたさん』 俺の名前を呼んでいるのだと解って、慌てて総悟の口から手を退けた。 「ひじかた、さん…」 暴力的な行為を強いられているにも拘わらず、総悟はずっと、俺の名前を呼んでいた。 止まらない俺の体は、もう凶器だ。 「あ、ううっ。く!」 愛しくて、愛しくて、愛しくて。 壊れるな、壊れるな、壊れるな。 「壊れねェ、から! あ…っ。だいじょ…ぶだから!」 言いながら総悟は、両足を俺の腰へ回して、更に密着させるように強く引く。 そこまでされて、漸く俺は、完全に動くのを止められた。 「これ以上は駄目だ。総悟」 「……」 総悟が俺をひたりと見据える。 「ヘタレ。…アンタなんか」 くしゃりと歪む顔は何を堪えているのだろう。 「アンタなんか死んじまえ!」 言いながら自分の腰を前後に揺らす総悟に眩暈がした。 「俺のナカで死んじまえ!」 それを。 堪えていたのか。 「死んじまえ…!」 「く、そガ、キっ」 あまりの痴態に、最奥まで捻じ込んで、思い切り吐き出した。 同時に総悟を強く扱き上げる。 「うああああっ」 撓った体は次の瞬間、ぷつりと意識を失った。 「本当は、俺が死にそうだったのが嫌だったのか、お前」 俺は総悟を、ただ、抱き締めた。 * 「隊長ォォォ! おめでとうございますゥゥゥ!」 「暑苦しい。寄んな神山」 「総悟ォォォ! おめでとォォォ!」 「有難うございやす。近藤さん!」 比較する方が間違っているのは解っているが、その扱いの差、流石だな。 どんちゃん騒ぎの中、総悟は機嫌良く振る舞ってはいたが、だるそうな様子が見て取れて申し訳なくなる。 寝込まなかったのが奇跡だ。 二日連続で無理をさせた根源の俺は、少し離れた場所で酒の入った茶碗に口をつけようとしていた。 総悟がぎらりと此方を睨んで、その唇が声を出さぬまま「飲むんじゃねェ。殺しやすぜ」と動く。 一昨日、酷く酔って無体を働いたのは俺だ。 素直に茶碗を脇に置いて、煙草に火を点ける。 七夕の宴会よりも、遥かに多く笑顔を浮かべる総悟を見ても、俺の心は凪いでいた。 あんなことをしなくても、総悟はちゃんと、すべてを解っていて。 自分の誕生日に託けて、俺を救い出してくれたのだから。 やがて宴もたけなわになった頃、王様ゲームで君臨した総悟が、ふふ、と笑う。 「土方さん、総悟様とちゅーしてみせなせェ」 その言葉に俺は唖然とし、周囲は色めきだった。 ふふん、と鼻で笑う総悟は、俺ができないと思っているのだろうが…数秒後、赤い瞳がまん丸くなって、思わず噴き出した。 |