いけない事をしているということは分かっていた。 「……ん、ん…あ…」 でも仕方ねえ。俺が悪いんじゃねえ。仕方ねえんだ。だって、だって。 「あ、ぅ…ひ、じかた、さ……」 土方さんのバカ。 * 事の発端は約一週間前。より正確に言うと今日から六日前だった。土方さんが仕事の関係で出張になったのだ。 見送る朝は別段何とも思わなかった。 面倒くせえお仕事ご苦労なこって、と思ったくらいだ。ちゃっかり土産もねだっておいた。 去り際をバズーカで撃たなかったこと以外は至って変わらぬ見送りだった。 何だかもやもやするなァ、と思ったのはそれから三日ほどたった夜だった。 さあ寝ようか、と電灯を消し、布団に潜り込んだときに何だか違和感がしたのだ。 その感覚が何だか分からなかったけれど背中がやけにすーすーする気がして落ち着かなくて、掛け布団を身体に巻き付けるようにして丸まって眠った。 そうやって自分でも判断のできない気持ちを抱えて過ごすこともう後三日。 流石に気がついてしまった。 寂しいんだ。 土方さんがいなくて。 今日も妙に心が騒めく夜中。名無しの感情の呼び名が分かってしまった今日の寝しな。 フラフラと誘われるように向かってしまったのは、本人不在の、あの部屋だ。 * 「は、ん……ん…」 潜り込んだ他人の布団の中で、という行為に今更罪悪感が湧く。 この布団の中に入るのはそう珍しいことじゃあなかった。但しひとりで、と付け加えるなら変わるけれど。 布団からは煙草の匂いがした。 いつもならヤニくせえ、と文句をつけていた匂いが今は寧ろ恋しくて、変態じみてるなァ、と思いつつもすんと少し鼻を鳴らして匂いを嗅いだ。 「あ、あ……」 目をきつく閉じて拙い動きながらも扱けば土方さんに触れられているような気がして堪らなくなる。 匂いが、するから……。 自分で自分に与える快感にさえも翻弄されながら、思い浮べる相手の名前を呼ぶ。 ここにいなくて、いてほしい人。 「ん、んっ…ひ、じかた…さっ…」 触れていないほうの手がそろりと下に伸び、いつも優しく解される場所をなぞる。 「あっあ…ひじかたさ、ひじかたさんッ…!」 やり方も何も分からず、それでも押しつけるようにすると、つぷ…と指が沈んでいく。 流石に全て飲み込める訳はなく第一関節までしか入らなかったが、それでもそこで感じることに慣れ切った身体は素直に反応する。 慣れ切った、というよりも慣れさせられた身体。 普段は俺のことを伺いながらされるのと同じ動作に反応したんだろう。 指はそのままに片方の手をかくかく動かすと受ける快感に背中がくんと反って顎が持ち上がった。 「あ、ふ…あ、あッ…」 土方さん触れてくだせェよ。 もっともっと、土方さんでいっぱいにして。 「は、あ、あん…」 ぎゅってして。苦しいくらいに抱き締めて。 「う、ん…はッ…あッ…」 耳元で囁いて。 その低音で痺れて動けなくしてくだせェよ。 もっと土方さんが欲しい。足りねえんでさァ。 だから、もっと、くだせェ。 なんて。 今ならそんなことも言ってしまえそうだ。 「あ、あっあッ、やァ…ああッ…」 その手を想像したら危うくなり布団を汚すまいと急いで重ねたティッシュをあてがう。 「んっんっ、ひじか、たさ、ああんッ…!」 そうしてどくどくと吐き出した欲望を受けとめた。 「……はァ……あ……」 まだ乱れたままの呼吸は整わず身体に力が入らないために布団に四肢を投げ出す。 背中や内腿が汗で湿って火照った身体が、冷静になった思考に恥ずかしくなる。 「……何してんだかねェ俺」 呟くのも虚しくなる。ひとりで、こんなとこで、何やってんだか。 とっとと自分の部屋に戻らねえと、と思いながらも匂いに捉えられて動けない。 ぼんやりとオレンジ色の電灯を見ると瞳に張った透明な膜のせいでぼやけて見える。 さっきの行為のせいもあるだろうけど、本当にそれだけなのか。 それはどうしても認めるのが悔しくて、自分の中でも保留にしておいた。 「……早く、帰ってきてくだせ」 漏れた本音はひとりきりの部屋には、やけに大きく響いた。 ねえ、いい子で待ってやすから。 早く、早く、ぎゅってして。 |