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江戸では連日真夏日を記録し、吹く風も最早熱風という勢いである。 そんな中を徒歩で警邏してくたくたになって屯所へ帰ってきた。 まだ陽が沈む気配のない中、取り敢えずエアコンの効いた広間で煙草を吸って涼む。 その後、自室に戻った俺は、いつもの癖で着流しに袖を通し掛けた。 「やべ。違ぇンだった」 ぽろりと零した独り言と共に、傍に用意してある浴衣を手にする。 近江縮みの本麻の、深い紺色のソレを着て、柳茶色の角帯を貝ノ口に結ぶ。 財布と携帯電話、警察手帳を袂に忍ばせ、玄関へ行ったところで、山崎に声を掛けられた。 「副長、お出掛けですか?」 「おう。ちぃとな」 「沖田さんもさっき、出て行きましたけど」 「そうか」 三和土で下駄を履きながら、適当に返事をする。 総悟が先に出ているのならば、急がなければならない。 「いってらっしゃい。気を付けてくださいね」 「ああ」 深く追及することなく、山崎は俺を送り出してくれた。 総悟を見掛けている山崎には、俺の行き先の見当が付いているのだろう。 屯所から目的地までの道のりを速足で歩いた。 これではまた汗だくになってしまうが仕方ない。 ターミナルが見える道を進むに連れて、人が徐々に増えてきた。 親子連れやカップル、友達同士のグループなどが殆どで、俺と同じく浴衣を纏っている者も多い。 この人混みの中で総悟を探すのは、幾ら待ち合せているとは言え難しいと感じ、一度連絡をしようと携帯電話を取り出した。 そのタイミングで、神社の鳥居の所に、しゃがみ込んでいる亜麻色の頭がちらちらと見え隠れする。 「座ってたら見えねぇだろうが、あの馬鹿」 総悟は特別背が低い訳ではないが、高い方でもないので、人混みには紛れやすい。 それなのに、何故見つけにくくなるようにしゃがんでいるのだろうか。 もしや暑さにやられたのかと、人を掻き分けながら総悟の元へ行く。 「オイ、総悟」 「遅いですぜ、土方さん」 陽の暮れ始めた中でも、総悟の顔色が悪くないのが判って、俺はほっと息を吐いた。 総悟は消し炭色の信玄袋をぶらぶらと揺らしながら「行きやしょうか」と立ち上がる。 全体的に色素の薄いコイツには、白絣の浴衣と信玄袋と同じ色合いの帯はとても似合っていた。 この浴衣は近藤さんからの何時ぞやの誕生日プレゼントだったと聞いている。 「ソレ、やっぱ似合うな」 「褒めても何も出やしませんよ」 「素直に喜べねぇのか、てめぇは」 無事合流できたことだしと、俺は祭りの会場となっている境内へ歩き出そうとした。 「あ、土方さん。ちょい待って」 「あん?」 「此処に屈んでくだせェ」 総悟が鳥居の柱の下を指差す。 何をする心算なのかと思いながらも大人しく従うと、総悟が信玄袋をがさごそと探り、小さなスプレーボトルを取り出した。 そして、しゅっしゅと何かの液体を、俺の首筋や手首、足首へと吹き付ける。 「何してンだ?」 「虫除けでさァ。蚊に刺されたかねェでしょ?」 「ほう」 総悟が手にしているボトルは、市販の虫除けスプレーのそれとは異なっていた。 辺りに広がる虫除けの匂いもまた、独特のクセを感じる。 「変わった匂いだな」 「俺のお手製ですぜ」 やはり、総悟が作ったものなのか。 一瞬、背中を冷たいものが伝った。 「妙なモンじゃねぇだろうな?」 「天竺葵を使っただけですよ。変なモンは入ってやせん」 「なら、イイけどよ」 総悟は毒物を扱う免許も取得しているくらいだから、草花の何やらを調合するのもお手の物なのだろう。 毒殺される訳ではなさそうだし、蚊に刺されるのを防げるのなら、助かると言えば助かる。 「行くか」 「へぃ」 今度こそ総悟と連れ立って、鳥居を潜った。 境内には出店が所狭しと立ち並び、ソースの焦げるよい香りや菓子の甘い香りが漂っている。 「お前、昼間は何してたンだ?」 総悟は非番だったので、暇潰しに寄席にでも出掛けていたのかと思ったのだが、返ってきたのは意外な言葉だった。 「俺ァ、昼寝三昧で、体力温存してやした」 「祭りのためにか?」 「そうでさァ」 流石、祭り好きを自称するだけのことはある。 その言葉を裏切らず、総悟は出店を見て回る間も、参拝を済ませる間も、いつになくはしゃいでいる様子だった。 勿論、一見すると普段通りの無表情なのだが、近藤さんや俺、同郷の馴染の者には解る程度には、楽しそうに見えるのだ。 まだ総悟がちびだった頃、武州の小さな祭りでそうしていたように、俺にぴたりとくっついて、はぐれないようにしているのも懐かしかった。 俺は祭りの警護などで立っていると、客に声を掛けられることも多いのだが、今夜は総悟がいるお陰なのか、それもない。 余計なコトに煩わされなくて快適だった。 「何か、欲しいモンは――…」 「あのう」 俺の言葉を遮ったのは、小鳥のように軽やかな、高い声音である。 驚いて総悟とは逆の、声がした方向を見てみれば、浴衣姿の二人の女性がいた。 女性というよりも、まだ少女なのかもしれない。 「何か?」 俺は即座に業務用の対応に切り替えた。 「ええと、お祭り、一緒に回りませんか?」 「は?」 「こっちも二人だし、そっちも二人だから、丁度いいじゃないですか!」 「いや……」 参ったなと後ろ頭に手を遣る俺と、俺の後ろに隠れてしまった総悟に向かって、二人の女性は口々に誘い文句を並べる。 「いいじゃないですか」 「ちょっと一緒に回るくらい」 俺は、背後から、とんでもない程の冷たい殺気を感じ取っていた。 何が何でもこの女たちの申し出を断らなければ、総悟の機嫌は地の底まで落ちるだろう。 「今日は女はナシの気分だからよ」 「えー!」 「ひどーい!」 「悪ぃな」 営業スマイルを取っ払って低くそう答えても、食い下がろうとする二人を横目に、俺は総悟の袖を掴んでずんずん歩き出した。 ぎゃあぎゃあ騒いでいたものの、幸い、二人の女性は追っては来ない。 拝殿から少し離れてほっと息を吐いた。 「ったく、アレさえなけりゃな」 「……」 「総悟?」 喋らない総悟を不思議に思って、ひょいと顔を覗いて固まる。 総悟は能面のような貌をしており、怒っているのがありありと伝わってきた。 「ちゃんと断ったろ?」 溜息混じりに言う俺に、総悟は何を思ったのか、例のお手製虫除けスプレーを浴びせてくる。 辺りに天竺葵の香りが充満した。 「オイ、何する」 「別に」 スプレーを信玄袋に仕舞った総悟は、多少は気が晴れたらしい。 「腹ごしらえの前に、ちょいと厠に行ってきやす」 「そうかよ」 からころと下駄を鳴らしながら厠に向かう総悟を見送りつつ、俺はふと、天竺葵について疑問を抱いた。 何だか総悟が天竺葵に矢鱈拘っているように思えたのだ。 本当にただの虫除けのために選んだ植物なのだろうか。 袂から携帯電話を取り出して、素早く天竺葵について調べる。 「開花時期、原産国……違ぇな。花の色ってこんなにあンのか……あ? 花言葉?」 天竺葵の花言葉の項目で、画面をスクロールしていた俺の指が止まった。 「――…あンの馬鹿餓鬼」 ぱちんと携帯電話を閉じて、袂に放り込む。 煙草に火を点け苛々とフィルターを噛み潰しながら、総悟が戻って来るのを待った。 「お待ち遠様でさ」 「総悟、ひとつ訊いてイイか」 「はい?」 総悟はきょとんとした表情を浮かべて、首をかくんと傾げる。 「俺って、そんなに信用ねぇの?」 俺のその一言に、総悟が顔色を変えたのが解った。 「何、言ってンです……?」 「天竺葵だよ」 「だから、何を…」 「信じないンだろ?」 天竺葵には花の色によって、色々な花言葉があった。 その中のひとつに『あなたの愛を信じない』というのを見つけたのだ。 確かに俺は若い頃には女にだらしなかったし、今でもよく女に声を掛けられる。 総悟にしてみれば、面白くないだろう。 ついさっきのだって、そうだ。 でも、だからって。 「なあ、どうなンだ?」 総悟は黙ったまま俯いている。 それが何よりの答えだった。 虫除けスプレーは、確かに蚊を寄せ付けない効果を期待して作られているが、別の意味での虫除けの意味も、持ち合わせていたのだろう。 何せ天竺葵の匂いは独特で、好みが分かれるから、臭いと感じた人物は近寄らない。 「お前、ちょっと、コッチ来い」 信玄袋を持っていない方の手首を掴むと、総悟が大袈裟に肩を跳ねさせた。 その姿にも苛ついたが、顔には出さないようにして、そのままずるずると総悟を引き摺り、拝殿へ引き返して裏に回る。 「……な、何すンです、かィ?」 総悟にしては珍しく、それこそ蚊の鳴くような声で問われた。 しおらしい様子に、加虐心を掻き立てられなかったと言えば、嘘になる。 俺は、総悟の背中を手近な木に押し付けて、身動きが取れないようにした。 「ホントに、何? 土方さ」 声が途切れたのは、俺が不躾に総悟の浴衣の裾を割って、手を入れたからだ。 「アンタ! 何考えて――…マジ、やめ……っ。あ、や!」 「おめぇが騒がなきゃバレねぇだろ」 「う、んうっ」 慌てて両手を口に当てた総悟は、次に投下された俺の言葉に、黄昏時でも解る程真っ青になった。 「これからじっくり思い知らせてやる」 ぼとりと信玄袋が土の上に落ちる。 その拍子にスプレーボトルが開いてしまったのか、天竺葵の香りが立ち込めた。 「は、う…んんっ」 身を捩ろうとする総悟の両肩を、左手の肘から下を使って押さえ付け、右手で太腿やまだ柔らかい中心を探る。 びく、びくと、総悟の体が反応するのを眺めながら、徐々に芯が通っていく中心へと指を絡めた。 「あ!」 「静かにしてろ」 言い様、きゅっと中心を握り締めると、総悟がまたびくりと体を揺らす。 声を殺すために、唇を固く結んで、ふーふーと息だけを吐いていた。 こうなってしまえば、総悟は抵抗らしい抵抗をしない。 俺は押さえ付けるのを止めて、総悟の前に跪いた。 浴衣の裾を大きく割り開き、露になった太腿へ、態と痕を残すように口吻けながら、握り込んだ中心に刺激を送る。 「んんっ、ん!」 手の中で熱を帯び、だらだらと先走りを零し始めた中心の、根元の部分ぎりぎりに口吻けると、もどかしいのか総悟が腰を揺らした。 それにしても、浴衣とは都合のよいものだ。 総悟は普段袴を着けているので、まずは袴を取っ払う必要があるが、浴衣は防御力が低いため、すぐに崩せる。 「ん、んうっ」 「口でするか?」 そろそろ達する頃合いだと判断した俺が尋ねると、総悟は荒い息遣いの合間から、ぶんぶん首を横に振りながら訴えた。 「……手、でっ」 「あっそ」 望み通り手の動きを速めると、総悟は唇を噛み締めて、俺の両肩に爪を食い込ませる。 「ん、う、ああっ」 「声、出すなって」 「だって、あ、あ!」 ぎゅうっと俺の肩を掴みながら、どうにも声を我慢できない様子の総悟を見て、俺は中腰になって下から総悟の唇を唇で塞いだ。 これで達しても大声を出すことはないだろう。 「うぐ、ううっ」 ぐちゃぐちゃに扱いて、吐精を煽る。 「ん、んっ。んんんー!」 くぐもった嬌声が上がったのと、手のひらに温かな体液が吐き出されたのを感じたのは、同時だった。 口吻けを解くと、総悟が涙目で噎せながら、必死に呼吸を整えていて、少し可哀想に思える。 俺は手の中の精液を零さないように気を付けつつ、総悟の体を片手で裏返し、木に両手を付かせるようにした。 「けほっ。アンタ、まさか」 「まさか、何だよ」 「さ、最後まで、すンの……?」 「思い知らせてやるっつったろ」 最初は、総悟だけイかせて終わりにしようと思っていたのだが、声を堪えて涙目になっている総悟を見ていたら、此方にも火は点いてしまう。 すっかりその気になった俺は、総悟の浴衣を帯のところまで捲り上げて、下着を下ろした。 「だって、誰かに、見られたら」 「見たい奴らには見せとけ」 淡々と答えて、総悟が出した精液でべたべたになった指先を、後孔へと這わせる。 「あ、あっ。か、神様に怒られまさ」 往生際の悪い総悟が、神様の存在まで持ち出したのには、苦笑いしてしまった。 その神様の前で既に一回達しているというのに、何を言っているのだコイツは。 「お前がいれば、地獄行きも、厭わねぇよ」 答えるついでにつぷりと指を挿入した。 「だから、おめぇも、余計なコト考えンな」 総悟は、俺の言葉に満足したのか、それとも挿れられた指の感触の所為なのか、もう何も言わなかった。 後ろを広げるために掻き回し、時折、総悟の好きな所へ触れる。 「うあ、ん、んっ」 木に縋りつくような格好になっている総悟が、幹に爪を立てているのが見えた。 「コラ、爪、立てンな」 「ん、んう」 言ってはみたものの、総悟の手から力が抜けることはない。 三本まで呑み込ませていた指を抜き、横を向かせて片足を抱えた。 そのまま総悟の足を自分の肩にのせた俺は、手早く自分の前を寛げて、猛ったモノを後孔へと押し当てる。 「ひ、じかた、さ」 「ンだよ」 「ひじ、かた、さん、てば」 すぐには挿れずに、何度か後孔に擦り付けていたら、総悟が焦れたように俺を呼んだ。 気を好くして、お望み通りにゆっくりと貫いていくと、面白い程に総悟の体が強張る。 「息、吐けって」 「ふは、あ、あっ」 根元までぎっちり挿れてから、馴染むのを待っている間、総悟を改めて見た。 白絣の浴衣の胸元は大きくはだけ、裾は腰まで捲られて、ほぼ着ている意味など失くしている。 これ程までに乱したのが、他でもない自分だと思うと、妙な高揚感が湧いてきた。 待てなくなった俺は、予告なしに腰を大きく動かす。 「う、あ!」 「総悟、声」 声を抑えろと言いながらも、俺が突き入れることを止めないので、総悟はどうしてよいのか解らずに戸惑っているようだ。 「あっ。だ、って。無理! 無理ィ!」 「ったく」 仕方ないので、総悟の口を片手で覆った。 「んう、う!」 速めた腰の動きに合わせるかのように、木に掴まっている総悟の指先に力が入っていくのが解る。 辺りには俺たちの荒い息遣いと、結合部から漏れるぐじゅぐじゅという淫らな音が響いていた。 突く角度を変えて、前立腺を重点的に責め立てると、再び総悟の中心が硬く勃ち上がってくる。 ソレは、すぐに腹に着きそうな程反り返って蜜を零し始めた。 「う、うっ。ん、ん!」 動く度に、総悟が呻くように喘ぐ。 すぐに弾けてしまいそうな中心を、どうにかしてやりたいとも思うのだが、生憎俺の両手は塞がっていた。 「オイ、後ろだけ、で、イケよ」 目を見開いた総悟が、恐る恐ると言った風に俺を見る。 「仕方ねぇだろ。手が、塞がってる」 「ん、んー!」 「いや、解ンね」 本当は、総悟がこのままで達するのが嫌なのは、解っているのだ。 前への刺激なしに達すると、絶頂が長引いて、本人的に辛いと聞いたことがある。 屋外で致している状況なのだから、それは避けたいのだろうと察せられる。 総悟がふるふると首を横に振るのを無視して、俺は腰を送り込んだ。 「んう!」 奥にこつこつと当たる感触がする。 「う、ううっ。ん、ん、ううう!」 奥の奥まで抉じ開ける勢いで突いていたら、唐突にぎゅうっとナカが締まった。 強烈な締め付けに耐え切れず、それでも何とか総悟のナカには出さないように、急いで引き抜いて地面へと白濁をぶち撒ける。 ふうっと息を吐き出して総悟を見遣ると、その場にへたり込み掛けていた。 「おっと」 慌てて総悟を抱きかかえる。 「アンタは、加減ってモンを、しなせェよ」 くったりと脱力してしまった総悟がそんなコトを言うので、俺は目をぱちくりさせてしまった。 「何言ってンだよ。元はおめぇの所為だ」 「は?」 「だから、思い知らせてやるっつったンだろが」 それ以上は反論する気力もないのか、総悟は黙り込んだ。 抱え込んだ体は、余韻を引き摺っているのか、ひくり、ひくりと反応を示している。 「なぁ、まだ、イってンの?」 「……煩ェ!」 覇気のない怒鳴り声を余所に、浴衣の裾をぺらりと捲ると、成程、総悟の性器からは未だぽたぽたと精液が滴っていた。 「あー、まあ、なんだ。その、悪ぃ」 「全然、思ってないでしょう。罰当たり」 「おめぇがいればいいンだよ」 総悟は気付いているだろうか。 天竺葵の花言葉は沢山あって、俺が先程から口にしているのが、そのひとつだということに。 『君ありて幸せ』 俺はお前がいるだけで、地獄であっても大笑いで闊歩できるのだと、そう言っていることに。 一際大きく息を吐き、総悟が俺の腕の中から出ていった。 乱れに乱れた浴衣を直し始めたことから、どうやら体を支配していた快感の波が引いたらしい。 俺も倣って身形を整え、足元の性の痕跡をざっと足で払い、なかったことにした。 ふと、総悟を見ると、何故か浮かない顔をしている。 「どうした」 「別に」 何でもねェでさ、と答えてはいるが、コイツの考えなど手に取るように解ってしまう。 どうせ、己の嫉妬心だとか女々しい思考だとか、そういうコトを考え始めたのだろう。 拾い上げて渡そうとした信玄袋は、やはり天竺葵の虫除けが漏れ出てどろどろになっている。 「コレ、洗わねぇと駄目だな」 「……そうですねィ」 「でも、まあ、お陰で蚊には刺されなかったな」 このような場所で交わった割に、蚊の被害を受けなかったのは、コレのお陰だろう。 厄介ではあったが、優秀でもある虫除けだ。 「なぁ、総悟」 「何です?」 「ソレ、また作れよ」 総悟の赤い瞳が真ん丸くなった。 月明かりに照らされて、とても綺麗に見える。 「つか、気が済むまで、作れば?」 疑心に囚われるなと、言うだけなら簡単だし、それは俺の身勝手でもある。 それよりも、総悟が俺を疑ってしまうなら、その度にこうしてぶつけてもらって、大丈夫だと教えたい。 だから、虫除けスプレーだろうが唐辛子爆弾だろうが、山葵入りの緑茶だろうが、何でも好きにすればいい。 口元を僅かに綻ばせた総悟を見て、此方も安堵した。 「さて、何か食うか」 折角祭りに来たのだし、気分を変えようと提案してみる。 総悟は暫し考えてからメニューをずらりと並べ出した。 「焼きそばと、たこ焼きと、それからお好み焼きと――…」 「似たようなモンばっかじゃねぇか」 そんな遣り取りをしながら、拝殿の裏手から、表へと出る。 煌々と灯された提灯の下、総悟がにっと笑みを浮かべた。 「でも、どれもマヨネーズ漬けになったって、一緒に食えるでしょう?」 ――……嗚呼、もう本当に、コイツは堪らない。 |