対羽根探し

※「対羽根」から読んだ方が解りやすいと思います。


 ああ、ソレがあったら、どんななンだろうなァ。


 公園のベンチに横たわるには、少し冷えてきた季節。
 仕方ないので座って駄菓子を頬張った。
 もうすぐ陽も落ちて暗くなるだろう。
 寄って来ているのは、この隊服をものともしない鳩の集団で、俺は駄菓子を千切って分けてやっていた。
 「これ、お前らの晩メシになるのかなァ。腹、膨れンの?」
 俺は視線を鳩から外さないまま、随分と前に万事屋の旦那に聞いて、そして土方さんと話したことを、考えていた。
 此処は今日の見廻りのルートから、かなり離れていて、しかも不意打ちで狙ったスポットだと言うのに…。

 「やっぱりサボってやがったか! 総悟!」
 どうして土方さんは、こうも俺を見つけ出すのが上手いのか…いつも感心してしまう。
 「空の頭で何考えてやがンだ?」
 土方さんがザカザカと歩いてくるので、鳩が一斉に飛び立ってしまった。

 「羽根」
 「は?」
 俺の呟きは話を集約したものだったので、土方さんには何のことだか解らなかったのだろう。
 「アンタと話した、羽根の話を、考えてやした」
 「互いを見つけ出す片翼が、人斬りの俺とお前にゃ、ないってヤツか?」
 こくりと頷いて、俺は残っている駄菓子を齧った。
 「アレ、あったらやっぱり、赤いですかねィ?」
 「違うだろうよ」
 答えがすぐに返される。
 「お前は、色素薄いから、白なンじゃねぇか?」
 俺は反射的に土方さんを見上げてしまった。
 「……なら、アンタは?」
 「黒っぽくね? どっちにしろ赤じゃねぇだろうよ」
 煙草の、匂いが、秋風と混ざる。
 「でも逆の色してちゃ、似合わねェ…」
 言ってしまってから、俺はしまったと思った。
 これでは片翼が土方さんだと言っているようなものじゃないか。
 顔を背けても、土方さんが呆気に取られているのが解る。
 どさり、と真横に座られた気配を感じた。

 「パンダみてぇで、いいじゃねーか」

 喉を鳴らして笑う土方さんの言葉に、俺は目を見開いた。
 そのまま、振り返ると、視線が絡まる。
 「…今度旦那に会ったら、言ってみますかねィ。俺の羽根は白くて、もう片方は黒いって」
 「だから会うな! そして言うな!」
 少しだけ笑って言った俺に、土方さんが焦ったように怒鳴る。
 「だって、旦那が羽根の話してくれたンですぜ?」

 マナーは何処に行ったのか、珍しく土方さんが地面に煙草を落として消す。
 その様子を見ていた俺は、いきなり抱き締められた。
 「あん時、確か正面から抱き締めろ、って言ってたよな?」
 今度は俺が焦る番だ。
 「アンタ、隊服着てンのに、何てことしてんですか!?」
 土方さんから体を離そうとするが、思いのほか強く抱き締められていて叶わなかった。
 「もう暗くて見えねぇって。勤務時間も丁度終わりだ」
 屁理屈を言い出したら、土方さんは、もう止められない。


 ああ、ソレがあったら、どんななンだろうなァ。


 「ヘタレ」
 パンダの羽根を想像しながら、顔を上げて土方さんを見つめる。
 「ンだとォ!?」
 「どうせなら此処までしなせェ」
 俺は伸び上がって、落ち葉を巻き上げる風のようなキスをした。

                               2011.11.4

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