ああ、アンタに言ったらどうするンだろうなァ。 いつものように仕事をサボって屯所の縁側でぼんやりと庭を眺めていると、聞き慣れた足音が近づいて来た。 ドスドスという音で、怒っていることはすぐ解る。 「総悟! テメェ、また堂々とサボってんじゃねぇ!」 声と共にふわりと香る煙草の臭いにも視線を戻さず、俺はぼんやり庭を見たまま、午前の見回り中に万事屋の旦那に言われたことを考えていた。 怒鳴り続けるかと思った土方さんは俺の隣にしゃがみ込み、暑さで隊服の襟を緩めていたのを無言でさっと直してくる。 「お前、無防備に首見せんなよ」 「なら痕つけんのよしなせぇ」 言い返すとそれは俺の勝手だ、と勝手さが上回る台詞を放たれた。 カチリと煙草に火をつけた土方さんは、まだぼんやり庭を見ている俺のことが流石に気になったようだ。 「何かあったのか?」 紫煙を吐いて訊いてくる土方さんに、俺はぽつんと言ってやった。 「旦那が言ってたンでさァ…羽根があるんだって」 「はあ!? ってかお前また野郎と会ってたのか!?」 土方さんの予想通りの反応には付き合っていられない。 「旦那と会ってたことはどうでもいいんでさァ。それより、俺には羽根がないって話で」 「あん? テメェみてーな腹黒に天使の羽根が生えるわきゃねぇだろ」 ゆるり、と土方さんの方を見ると青鈍色の瞳と視線が絡まった。 「…万事屋が何だって?」 多分俺は相当ぼんやりしていたか、真剣だったかのどちらかだったのだろう。 土方さんが真面目な顔になった。 「人間は元々、片方だけ羽根が生えてるんだそうで」 俺は旦那に聞いたままの話を口にしてみた。 黙ったまま煙草を吸っている土方さんは、どうやら話に付き合ってくれるらしい。 「もう片方の羽根、持ってる人を探し当てるんだそうでさァ」 そう言って俺はまた視線を庭に戻した。 「で、なんでオメェに羽根がねぇってことになんだ?」 「俺ァ、人、斬ってますからねェ」 気配で土方さんが固まったのが解った。 それから程なく腰を下ろした土方さんが、俺の背中に大きな背中を預けるようにくっつけてきた。 「そりゃ、俺にも羽根なんざねぇな。だがこうして背中合わせてりゃいいだろうが」 紫煙が俺の鼻先を掠めた。 ああ、アンタに言ったらどうするンだろうなァ。 俺は素早く身体を反転させると、土方さんの背中に飛びついた。 「どうせなら正面から抱きなせェ」 「勤務中だ」 そう言いながらも土方さんは、羽根がない俺を正面から抱きしめてくれた。 |