冷たさを孕んだ夜風がびゅっと髪をさらう。 体温を奪いかねないが、討ち入り前のこの瞬間には、きっと隊士たちの気を引き締めてくれる。 気持ちを落ち着かせているのだろうか、総悟が近くの塀に背を預けている姿がちらりと見えた。 視界の端にそれを置きながら、取り囲んだ屋敷の二階を見上げる。 庭の木々にはこの季節にお誂え向きのイルミネーションがきらきらと輝いていた。 離れた所から、寺の鐘の音が聞こえてくる。 「御用改めである!」 一斉に走り出す隊士たち。 だが、その中で、俺だけは動くことができなくなっていた。 ――迂闊だった。 そう確信した時は、引き返すには遅く、総悟を止める術はなかった。 既に俺は突入の合図を出してしまったのだ。 総悟の足元で、ざり、と、靴とアスファルトの擦れる音がする。 それで、コイツの体調がすこぶる悪いのだと気づき、慌てて肩を掴もうと手を伸ばしたが間に合わなかった。 駆け抜けていった横顔は、明らかに熱の所為で赤かった。 配置の関係上、俺が総悟と合流するまでにはかなりの時間がある。 無線で呼び掛けようと思ったが、そんなことをして万が一、集中力を削いでしまっては元も子もない。 早く総悟の所へ行くことができるように、自分の仕事を片付けるのが一番だ。 俺は目の前のすべてを薙ぎ払うために、素早く刀を抜いた。 「副長! 何してるんですか!?」 横にいた山崎が声を荒げる。 当然だ。 今夜俺は近藤さんと隊を分けつつ、陣頭指揮を執るのだから、自ら進んで斬り込むのは間違っている。 「副長!」 「煩ぇ!」 「沖田さんなら俺が見てきます!」 「――てめぇ! 知ってやがったな!?」 振り向いた俺はまさに鬼の形相だったのだろう。 山崎がヒッと悲鳴を上げる。 その姿に苛ついて、そこら中を斬って回った。 要は俺が状況を把握して、指示しながら動けばいいのだ。 この場所に関してはそれで構わないが、一番隊を投入した屋敷の二階がどうなっているかが解らない。 総悟の足音が脳内で再生された。 その時。 階上からわあっと一際大きな声が聞こえてきて、意図せず体が硬直した。 傍にある階段を見ていると隊士が一人、転がるように降りてきて、大声で報告をする。 「駄目です…! 下よりも上に人数がいます!」 いつもの総悟になら何の問題もないことだったが、今夜はまったく状況が異なる。 「総悟は!?」 「それが…」 言い淀む様子でマズイのだと解った。 そうは思っても未だ場の収拾がついていない。 近藤さんに連絡を入れずに勝手に動いていいものか。 「行ってください」 山崎が応戦しながら俺に言ったのを合図に、方々から後押ししてくれる声が聞こえてきた。 「俺らを信じてください!」 重く、しかし有難い言葉を受け取って、俺は急いで階段を上った。 二階は、予想を上回るほどの修羅場だった。 怒号や悲鳴が飛び交い、刀が交わる音があちこちで響く。 俺は頭の中で屋敷内の地図を広げ、恐らく総悟が突っ込んでいったであろう一番奥の部屋を目指して走った。 途中では勿論斬り掛かられるが、そんなものはぶっちぎる。 心配する必要はないかもしれない。 だが。 いくら真選組最強であっても、随一の身のこなしをしていても、人間なのだ。 斬られれば血が噴き出すし、耐え難いほど痛むのだ。 やっとのことで見つけた亜麻色が、普段よりも遥かに多く返り血を浴びているのを見て、舌打ちをした。 何人目なのかは解らないが、今、相手をしている二人の浪士に押され気味になっている。 持ち前の俊敏性を欠いているため競り合いになった上、体格差がある相手に対して踏ん張りが利いていない。 そんなことを思っていたら、俺の方にも相手ができてしまい、捌かなくては総悟まで辿りつけなくなってしまった。 長引かせる訳にはいかないと、刀を返して上段から振り下ろす。 男が倒れるまでを確認していると、後ろから声を掛けられた。 「此処で、何を、してンですかィ」 二人の相手を終わらせた総悟が、ひとつ息を吐いて、俺の方へと一歩踏み出す。 「馬鹿野郎! 後ろだ!」 叫んで、同時に走って、後はあの酷い痛みが、俺の肩を襲った。 根性で斬り伏せたが、意識はどんどん薄れていく。 総悟が何度も俺の名前を呼んでいた、気がした。 消毒液の、臭いがする。 不快なソレに重い瞼を開けると、難しい顔をしていた山崎の眉が下がった。 情けないコトに自室まで運ばれたらしい。 病院でないだけマシなのだが。 「どうなった?」 「どれがですか?」 戦況を尋ねた俺に対して額のタオルを取り換えながら返された言葉に違和感を覚えた。 「どれって?」 「討ち入りの結果、その怪我の具合、沖田さん、どれですか?」 「……」 黙っていると山崎が挙げた順序で説明を始める。 討ち入りは成功した。 俺の怪我は思ったよりも酷くはないが、煙草も酒も控えるように。 総悟は。 総悟は、あの後ぶっ倒れて、部屋から出てこない、と。 「アイツの熱は?」 「下がってると思います。触らせてくれないんで言い切れませんけど」 そこまで言って山崎が薬と水差しがのった盆をぐいと俺の枕元に突き出す。 麻酔が効いているのか、体を起こすのは比較的楽だった。 数種類の錠剤をざらざらと口へ放り込み、水で一気に喉の奥へ流し込む。 「俺のことはいい」 布団に体を横たえながら襖へ視線を遣る。 それだけで俺が何を言いたいのかを察する山崎は、本当に優秀な監察というか、なんというか。 「じゃあ、沖田さんの部屋に行ってきます」 立ち上がりながら言った山崎が思い出したように此方を振り返った。 「煙草、没収しときました」 「何してくれてンだ!」 枕元にある煙草を確認すると、成程、空だ。 「劇物ですよ。あ、劇物と言えば――」 「何だ?」 「存在が劇物の人がいますけど、ソレも駄目ですよ?」 「うるせぇぇぇ!」 空の煙草の箱を投げつけて山崎を追い出した俺は再び眠りに落ちていった。 そうして微睡み続けて何日過ごしただろう。 何度か近藤さんや山崎、ほかの連中の気配を感じていたが、総悟が現れることはなかった。 自分の所為で俺が斬られたとか、空の頭で阿呆なコトを考えていなければいい。 思っては意識が途切れることの繰り返しだった。 はっきりと目が覚めた時には部屋がおかしな色に染まっていた。 夜なのは解る。 事実、暗いのは暗い。 奇妙なのは、仄かに白く淡い色が部屋に差し込んでいることだ。 「月明り…いや、違うな」 底冷えする部屋の中、窓を遮る障子を見上げて、ふと理解した。 「雪、か」 道理で静かな筈だ。 どのくらい降っているのだろうか。 俺は布団から這い出て出入り口の襖に手を掛けた。 肩には痛みが残ってはいたが、言われていた通り、大したことはないのだろう。 襖を引くと、細かな雪が舞っているのが見える。 珍しく積もったな、と隙間から目だけで庭を見回して、息が止まった。 痛みとかだるさとか、ほかの色々なものをすべてすっ飛ばして襖を勢いよく滑らせる。 「総悟!?」 視線の先には、単姿の総悟がいた。 刀を抱えて、ただ、其処にいた。 雪の中。 ただ、其処に、うつ伏せて。 「てめぇ何してやがる!」 慌てて庭へ飛び降りて、総悟の体を抱き起こした。 意識はなく、まるで眠っているようで、ぞわっとした感覚が背を駆け昇る。 何度も体を揺すって名前を呼んでいると、瞼がぴくりと動いて薄らと開き、赤い瞳が俺を見た。 「巫山戯るな! いつから此処に――」 「…アンタが、巫山戯てンでしょう…」 怒鳴っても返ってくるのは細い声で、総悟の歯が寒さでかちかちと音を立て始める。 立たせようと総悟を引っ張った。 だが、体がうまく動かない様子で、足元から崩れて雪の上にぺたりと座り込んでしまう。 「総悟、立てって」 「ヤでさ」 言って総悟は俺の手を振り払い、刀を引き寄せ俯いた。 まさか此処で話を聞く訳にもいかない。 思い切って総悟の体を抱えた。 「ひじか…っ。肩!」 「お前が頑固に動かねぇからだろ」 「解りやした! 解ったから! 下ろしてくだせェ!」 猛抗議する総悟は冷え切っているのかと思っていたが、触れている場所は燃えるように熱い。 先日熱を出したばかりだと言うのに、こんな馬鹿な真似をすれば、また熱を出すのは当たり前だ。 そのまま自室へ連れ込んで、濡れた髪をタオルで強引に拭うと、これから詰問されることを予想してか、亜麻色の頭はどんどん項垂れていった。 「で?」 一声で総悟を追い詰める。 「……雪見」 「違ぇだろ」 「……見張り」 「それも違ぇ」 多分、深い考えがあって雪の中にいた訳ではないだろう。 だから答えが出ないのだ。 しかしその裏には、やはり俺が思っていたような阿呆な理由が潜んでいる気がした。 「お前、妙な責任感じてンじゃねぇだろうな?」 「……それは、あんまり、ねェです。ただ…」 言葉を濁した総悟は、じっと畳を見つめている。 頬を両手で包み込むと、大袈裟なくらい肩が揺れた。 上向かせて、赤い瞳を覗く。 総悟は、暫く視線を合わせないでいたが、やがて諦めたように俺を見た。 「――俺、なんで此処にいるんです?」 「…何、言ってる?」 問い返した瞬間、総悟の顔が怒りに染まり、ぎり、と睨まれる。 「砦のアンタが怪我をして、先鋒の俺が無事でどうすンですかィ!?」 反射的に総悟をぶん殴ってしまった。 「やっぱりてめぇは阿呆じゃねぇか!」 「阿呆じゃねェ! あんな所に来て…もしも近藤さんが…っ」 あの時、俺がそれを考えなかった筈がない。 『行ってください』 『俺らを信じてください!』 だから、総悟の元へ行ったのだ。 「巫山戯ンなよ…巫山戯ンな…」 俺の口を衝いて出るのはそればかりで、言いたいことは何も言葉にならなかった。 両手がぶるぶると震えているのは、怒りなのか、なんなのか、自分でも解らない。 だが、そこから何かを感じ取ったのか、総悟が俺の手に自分の手を重ねた。 まだ湿っている手のひらは先程よりも熱く感じられて、思わずその顔を見ると、熱があるというのに蒼白だ。 「だって、土方さん。俺はアンタより先でしょう」 「何を勝手に、ンなコト決めてんだ!」 どうしようもなくて、遣り場がなくて、コイツの阿呆さ加減をどうにかしたくて。 何より、俺が、そんなことを認めたくなくて。 派手な音と共に先程まで寝ていた布団に総悟を縫い止めた。 「なにすンでさ――…」 「これ以上、余計なコト抜かしやがったら、酷ぇ目に遭うぞ」 びくり、と、総悟が体を強張らせる。 それでもその口が「だって」と動くから、唇で塞いで、濡れた帯を引き抜いた。 「ん、んん…んっ」 吐息の合間に小さく甘い声が混じる。 総悟の手が、俺の着流しではなく布団を掴んでいるのが、今夜の行為に同意していないことを示す唯一の行動だった。 張り倒すなり、蹴り倒すなり、いつもなら既にされていてもおかしくはない。 だが、長時間雪の中にいて、まして尋常でない熱さを発する体では、抵抗らしい抵抗ができないことなど、総悟が一番解っている筈だ。 水分を含んでいる所為で纏わりつく単をゆっくりと脱がせると、余程寒いのか白い体がカタカタと震え出した。 そう言えばこの部屋には暖房を入れていない。 俺は一度体を離して総悟に掛け布団を被せ、文机の上にあったリモコンを操作して室温を高めに設定した。 戻って布団を捲ろうとすると、しがみついているのか布団と一緒に総悟が釣れる。 「総悟。手、離せ」 はみ出ている亜麻色の髪が横に揺れるのが憎らしい。 仕方ないので布団ごと総悟を抱き締めると、これ以上は何もされないと判断したのか漸く顔を覗かせた。 甘いな。 態と音を立てて唇を啄ばんで、すぐに舌を入れて深くする。 「ん、ん…ぅ」 上顎を舐めて、もがく体の力を抜かせ、その隙に布団を引き剥がした。 しかし、総悟の両手は俺の衿を掴むことはなく、相変わらず布団を追いかける。 「布団。布団返してくだせ…」 仕舞いには意味の解らない要求をされた。 「なんで布団だよ?」 「さむ、寒ィ」 「もう阿呆なコト言わねぇか?」 赤い瞳が、ゆらりと揺れるのを、見逃さなかった。 それがゆっくりと閉じる。 「寒ィ」 総悟の右手が俺の着流しの中へ滑り込み、肩に巻かれた包帯をなぞった。 「寒ィ」 「雪遊びなんぞするからだろが」 「こんなに寒ィと、思わなかったンでさァ」 「ホント、阿呆だな、お前は」 白く、熱い首筋に顔を埋めると、一度だけ喉がひくっと鳴ったのが聞こえた。 唇で肌を辿りながら、まだ俺の包帯を触っていた総悟の手を取って指を絡める。 しかし、そのまま覆い被さろうとすると、待て、と言わんばかりに、総悟の体が起き上がった。 「往生際が悪ぃじゃねぇか…」 「違ェ…あの…俺、上で」 小さな声でぼそぼそと呟いた総悟が、俺の膝によじ登る。 ああ。 このまま俺が押し倒せば、腕をつかなければならないからか。 「んじゃ、お言葉に甘えるとすっか」 ぺろり、と、胸を舐め上げた瞬間に跳ねた体が、もう逃げられないように抱き込んだ。 敢えて総悟の中心には手を伸ばさず、胸を吸いながら脇腹や腰骨の辺りを只管に撫でていると、熱い吐息が耳にかかって焦れ始めているのが伝わってきた。 「…ん、土方さん」 「ンだよ?」 「ひじ…かた…さ…」 望みを言葉にできない総悟が腰を擦りつけるような動きをする。 そっちの方が言葉よりも遥かに凄まじい破壊力を持っているのだが、自分では解っていないのがコイツらしい。 意地悪をする心算だったのだが、そう言えば総悟は高熱を出しているし、俺は俺で怪我人だ。 張り詰めている中心を握り込むと悲鳴のような声が上がった。 「あ、うあ…あ!」 手のひらを上下させる度に溢れる先走りのぬちゃぬちゃという音が、返って部屋の静かさを際立たせる。 「ん…んっ! ふ、あっ」 先程まで紙のように真っ白だった肌はほんのりと桃色に染まっていて、障子を跨いで差し込む雪明りを優しく弾いていた。 「総悟、一回イっとけ」 いつもなら絶対に嫌だと頑張る筈なのに、今夜に限ってこくこくと頷く姿が俺の腰にもクる。 動かす手を速めると、総悟の頭が俺の右の肩へと落ちてきた。 漸く俺の着流しを掴んだ手に力が篭り、全身が小刻みに震え出した次の瞬間、息を詰める。 「――あっ!」 滴り落ちた温かいモノを受け止めた手で、間髪置かずに後ろへ触れるとソコがひくりと動いて、一本目の指が比較的すんなりと入った。 「う、ああっ」 抜き差ししながら背中を撫でてあやす。 俺が動かす指に合わせたかのようにびくびくと反応する総悟の体を見つめていた。 「も…もう、いいでさァ…っ」 「馬鹿か。まだ全然解れてねぇだろ」 言いながら指を増やせば、ぐうっと総悟の喉が反り返る。 前立腺に触れて喘がせ、イきそうになる寸前でずらし、更に増やした指をすべて使って掻き回した。 「はぁ…は…っ。あ、あ!」 「熱あるからか?」 「…?」 「感じてンだよ、お前。いつもより」 せめて言葉で虐めておこうと試してみる。 「な…っ。そんなコトねェ! あ、ヤ…!」 バタバタと暴れ出した総悟の後ろから指を引き抜いて、膝立ちするように促してみれば既にその足はがくがくと笑っていて、吹き出してしまった。 「ホラ、ぐずぐずじゃねぇか」 「う、う、煩せ――ひ、あああっ!」 悪態をつかれる前に自身をぐっと突き挿れて黙らせる。 「うああっ。ん、んあ!」 総悟のナカは予想以上に熱くて、流石に心配になったが、もう止まれる状況ではなかった。 「まだ、寒ぃか?」 それは。 まだ、怖いのか、という、問い。 「なあ、まだ、寒ぃか?」 答えない総悟を思い切り揺さぶる。 「あ、ヤだ! ひじ、かた、さ…!」 「ヤだ、じゃなくて。お前が俺でも同じコト、しただろ?」 そうしたら俺も寒ぃンだ、と、付け足すと総悟が目を丸くした。 頷いた亜麻色の頭を、優しく梳いて、あとは黙って突き上げる。 肩に置かれた総悟の両手が無意識に爪を立てる所為で走る凄まじい痛みを、与えて与えられる快楽にすり替えた。 「も…駄目でさ…ぁ、ひじか…だめっ…!」 そう叫んで仰け反った体が白濁を飛ばす。 抱き締めてナカに放った瞬間、総悟が俺を強く抱き返してきた。 「ひじ、かたさ…熱ィ」 「お前が、熱ぃ」 寝入ってしまった総悟の体を拭いて、自分の身形もなんとか整えた。 そのまま二人、抱き合って、泥のように眠った。 それが。 ――災いした。 翌朝、姿の見えない総悟を心配した山崎が俺の部屋に猛ダッシュしてきた。 当然総悟の熱は上がっていて、俺の傷は開いている。 「あんたら何したんですか!」 俺たちは叩き起こされ、怒鳴られ、薬を飲まされ、また布団に押し込まれた。 何故か俺の部屋に総悟の布団が運び入れられて、仲良く隣合って寝る羽目になる。 珍しく文句を言わない亜麻色が、もそもそと自分の布団に移動していった。 「二人とも、何か欲しいものとか、ありますか?」 うんざりとした顔をした山崎が、一応そう尋ねるので、俺は素直に煙草を寄越せと要求する。 ふと、隣の総悟を見ると、何故か俯いていた。 「総悟?」 「沖田さん?」 「…あの、俺、あいす…」 下を向いて、昨日のように布団を握り締めて、まるで餓鬼のように総悟がぽつりと言う。 山崎がぷっと吹き出した。 「な、なンでィ!」 「アイスのケーキ、ですね。此処で食べるようにしますか?」 問いかけに小さく頷く総悟を見て、俺は漸く総悟が何を言いたいのかを察した。 俺たちの望みを叶えるために山崎が部屋を出ていく。 「オイ、総悟、お前」 あんなに、寒いと言って、震えていたのに。 「俺とクリスマスがしてぇのか?」 訊くと総悟は布団に潜り込んでいってしまったが、くぐもった小さな声で「死ね土方」と聞こえてきたから。 それは、もう見事なまでに、いつもと同じに、言うものだから。 少し、笑った。 |