もう五日だ。 デカイ捕り物があって、その後土方さんは書類の山に埋もれることになった。 書類と戦うことなんざいつものことだから、俺は最初まったく気にしていなかった。 二日目までは、いつも通りサカってたし。 だけどそれが三日目になると、流石に俺の相手をしている場合じゃなくなって、本格的な徹夜状態になった。 そしてその状態が、今日で五日目になったのだ。 その間俺は土方さんの部屋に入らせてもらえていない。 山崎を脅して吐かせると、土方さんは食事をほとんど摂っておらず、睡眠もほんの僅かの仮眠のみだということが解った。 深夜。 誰もいないのを見計らって、何とか問題の部屋に辿りついた。 俺は少しだけ襖を開けて土方さんの部屋を覗き込む。 (こりゃ流石に応えてるなァ) いくら気配を殺しているとは言え、此処に俺がいることにあの土方さんが気づいていないのだ。 視線を滑らせると、まだ書類が山になっている。 この分じゃ多分今日も徹夜で、徹夜の記録を更新するだろう。 嘆息した俺は、煙草の煙でもうもうとなっている部屋の襖をスパンと勢いよく開けた。 「…総悟、か」 (あー、これホント駄目だ) 名を呼ばれた瞬間に、土方さんの疲労度が解る。 その表情に至っては言葉にもならない。 「五日徹夜すると人間ってェのはゾンビをも凌駕するンですねェ」 「うるせー…。何の用だ…?」 何とか答えてくれるだけ、まだマトモなのかもしれない。 「俺、暫く此処でアンタ見てやす」 俺は持ってきたものを部屋の隅に置くと、煙で充満した部屋の空気を換気するために窓を開けた。 「邪魔…してんじゃねーよ」 土方さんが机に顎を乗せたまま、俺をじっと見る。 「邪魔なんざしやせんぜ? 此処にいるだけでさァ」 次に返ってくる返事は予想済みだ。 「既に邪魔、してんだよ」 (ほら、やっぱり言った) 俺はわざとらしくならない程度に少しだけ表情を曇らせて、土方さんから視線を逸らす。 「じゃあ、今だけ休憩してくだせェ。ちょっとだけ」 ちらっと土方さんを見ると、顔を上げて俺の方を向いているのが解った。 視線を外したままで俺は更に言葉を続ける。 「折角、土産持ってきたし…」 「土産?」 問い返した土方さんの前に、俺は先程部屋の隅に置いたガンガンに冷えているジュースの瓶をドンと置いた。 「俺が甘ぇモン苦手なの知ってるだろが」 驚きながら嫌そうにしている土方さんの反応も、俺には予想済みだった。 気にせずにコップにジュースを注いで土方さんに差し出す。 「疲れた脳には糖分がいいんですぜィ?」 「いらねー…」 それも予想済み。 だから受け取ってもらえないコップを、俺は自分の口元まで持ってきた。 「アンタは糖分不足だけど、俺は土方さん不足してるンでさァ」 俺はジュースを口に入れると、そのまま土方さんに口吻けた。 思いっきりジュースを喉に流し込んでやる。 「だからジュース飲んで、書類早く終わらせてくだせェ」 土方さんは最初はびっくりした様子だったけれど、渋々コップを受け取った。 (あと一押しか) 俺は少しだけ笑みを浮かべて土方さんをじっと見る。 「なンだよ」 気づいた土方さんが、やはり予想通りの反応を返したので、笑みを深めて切り返した。 「俺、此処で待ってやす」 溜息を吐いた土方さんは、一気にジュースを飲み干した。 時間にして十五分もかからない内に、土方さんは俺を睨みつけることになった。 「テメェ…これ、何だ…?」 少し息が乱れている。 多分意識もはっきりしてこなくなっている筈だ。 「何だって……訊いて、ンだよ」 「体に害はありやせん」 俺は無表情で土方さんを見つめて答える。 伸ばされてきた土方さんの手が、俺の腕をこれでもかという程の力で掴んだ。 「どういう……」 つもりだ、と言いたかったんだろう。 ぐらりと傾いだ土方さんごとひっくり返った俺は、計画をすべて暴露した。 「これ、鬼嫁入りジュースでさァ。アンタ徹夜続きの上、すきっ腹でしょ。一気飲みすりゃぶっ倒れること間違いなしって訳でィ」 笑った俺の視線の先で、土方さんが寝息を立てている。 「……五日も寝なかったら、死んじまいまさァ…」 笑うのをやめたら思わず呟きが漏れてしまった。 疲れきって眠っている顔をじっと見つめる。 計画を成功させた俺は土方さんに口吻けて、大きな体を抱くようにしながら眠った。 |