毎年、屯所では七夕に宴会を開く。 昨日は討ち入りがあったから、本日開催は危ぶまれたが、そこは流石お祭り好きの集団だ。 強行突破で呑むらしい。 ただ、その討ち入りの所為で、市中の警備が強化されている。 流石の俺もサボる訳にはいかず、隊士と共にかぶき町を回っていた。 胸ポケットで携帯電話が振動する。 『副長が倒れました』 山崎が開口一番、そう言った。 一番隊隊長の俺を呼び戻していることと、その声の調子からあまりよろしくないのだと判断し、屯所までの近道を計算した。 討ち入りが関係しているのだろうか? 歩きながら、土方さんの様子を振り返ってみるが、特に怪我はなかったと記憶している。 眠る前にあんなに激しく、人を好き勝手にしておきながら、翌日ぶっ倒れましたとはいい気なものだ。 ――俺がもう一回、あと一回と、せがんだことは棚の上に遣っておこう。 兎も角、何事もなく死体になったのかを確かめたい。 大したことがないのなら、弄り倒すだけで済む。 しかし、事と次第では、今夜の七夕宴会は中止だし、明日の俺の誕生日も暗澹たるものになってしまう。 梅雨の晴れ間の陽射しが眩しい午後、汗が頬を伝うのも構わずに足を速めた。 ところが。 「すみません。副長は沖田さんには会わないって言ってて」 屯所に戻り早々に土方さんの部屋へ向った俺を、入口の前で待ち構えていたのは、電話を寄越した山崎だった。 「意識はあンの?」 「はい、しっかり」 「なんで俺が駄目なんでィ」 ぴったりと閉じられた襖を、山崎の肩越しに見つめる。 心配してやったのに、これでは馬鹿のようではないか。 ぶった斬って中に押し入ろうと、刀の柄に手を掛けた時だ。 「ね、熱が高いんですよ! 咳も! そう、咳もしてて!」 山崎が襖を庇うようにして叫ぶ。 途端に部屋の中から、ごほごほっと苦しそうに土方さんが咳き込んでいるのが聞こえてきた。 「そういや昨日は…」 暑くて熱くて二人とも裸のまま眠ってしまったから、それが原因で土方さんは風邪を引いたのかもしれない。 「思ってるコトを全部口に出さないでください」 山崎が心底げんなりしているが、そんなことは今はいい。 「風邪なら、覗くくらい、別にイイだろィ」 「だ、駄目です…って」 すぱーん、と、山崎ごと襖を滑らせた瞬間、起き出していたらしい土方さんが布団の中に飛び込んだ。 こんもりと山になった布団からくぐもった声がする。 「出てけ」 「やでさ」 「お前とは会いたくねぇンだよ」 冷たい声で言われて、一瞬体が強張った。 「副長! 別に沖田さんが悪い訳じゃないんですから!」 復活したらしい山崎が土方さんを咎めるが、当の本人は態度を変えることもなければ、布団から顔を出すこともない。 「嫌なモンは嫌だ。出てけ」 「…もう、いいでさ」 一応、俺だって、心配したのに。 下を向いた俺を見た山崎が、とうとうキレた。 「あんたの不注意でしょう! 棚から落ちてきた押収物浴びちゃうなんて!」 「山崎てめぇ! 総悟には黙っとけって言っただろうが!」 ばさりと布団をぶっ飛ばし、土方さんが怒鳴り返す。 その姿に、俺はぱちぱちと目を瞬かせ、首を一度右に傾け、今度は左に傾けた。 だが、どう見ても。 「アンタ、猫耳ついてやすよね?」 「ぎゃああああ!」 土方さんが両手を慌てて頭の上に持っていく。 その先にある、黒の、ふわふわした、可愛らしい三角の、ふたつの耳を隠すために。 触りたい。 そう思っても別に俺がおかしい訳ではないだろう。 「土方さん」 「出てけ!」 土方さんの方へ一歩踏み出した瞬間、鋭い声が飛んでくる。 あまりの剣幕に驚いて固まっていると、此処から先の被害を予想したのか、山崎がそろりと部屋から出ていく気配を感じた。 「お前も出ていけ!」 「なんで、そんなに嫌なんで?」 確かに笑うべき状況になってはいるのだが、土方さんの様子が尋常ではないので、俺はすっかり爆笑するタイミングを逃してしまっていた。 だが、答えが返ってくることはなく、土方さんは再び布団へと潜り込んでしまう。 「土方さーん」 「……」 傍まで寄っていって枕元に正座してみる。 よく見れば布団からは黒い耳の先がちょこんとはみ出てしまっていた。 誘われるように、柔らかそうな毛に包まれているソレに、そっと触れてみる。 「うおっ! てめぇ何しやがる!」 飛び上がった土方さんの、その下半身を見て、再び俺は頭を左右に傾ける羽目になった。 「アンタ、尻尾もついてやすよ?」 「ンなこたぁイイから。頼む、出ていってくれ」 口元を片手で覆った土方さんが苦しそうな表情を浮かべていることに気づいて、慌てて背中を擦ろうとしたのだが、思い切り手を払われる。 「総悟」 「理由を、ちゃんと言ってくれねェと、解らないでさァ」 会いたくない。 嫌だ。 出ていけ。 先程から、酷いことばかりを言われているのだ。 でも、吐き気を堪えるようにしている土方さんは、何も言ってはくれなかった。 「話をするのも、嫌ですかィ」 「嫌だ」 瞬間、俺は耐え切れずに土方さんを引っ叩き、部屋を飛び出した。 一番酷いのは、土方さんが俺を一度も見なかったことだ。 自分の部屋に駆け戻って、薄暗い部屋の中、閉じた襖を背にしてずるずると座り込む。 あのような姿を見られたくないということくらい理解はできる。 況して自分の不注意で猫なんぞになったのなら、プライドが高いあの人は、自分を許せないに違いない。 だからって。 何故俺にあれほど当たり散らかすのかが解らない。 「違ェ」 膝を抱えていた両手をきつく握り締めた。 「相手にしてもらえてねェんだ」 こういう時に、頼りにならないのだと、寧ろ足を引っ張るのだと、土方さんは思っているのだろう。 ふと、土方さんの苦しげな貌を思い出した。 あんな風に俺を遠ざけるなんて、ただ猫になっただけじゃなく、体にも何か異常があるんじゃないか? そうだとしたら、少し眠らせてやるのがいいかもしれない。 俺は、日が暮れるのを待ってから、もう一度土方さんの部屋へと足を向けた。 「土方さん」 襖を開ける前に声を掛けるなんて、前にしたのは何時だったか。 「またお前か」 「入ってもいいですかィ?」 沈黙が体を突き刺していくが、只管待っていると「ちょっとだけなら」と応えがあった。 室内の明かりは落としてあって、枕元に行燈だけが灯されている。 「あんまりこっちに来るな」 「なんでです? ソレ、感染るんですかィ?」 「……」 近寄らせたくないのなら、そうだと嘘を言えばいいのに、律儀なお人だ。 「アンタ、具合もよくないんでしょう?」 「いや、そうでもねぇよ」 少し慌てた様子で布団を捲り、土方さんが半身を起こした。 猫耳を見てみると、見事に垂れてしまっている。 「俺のコト、困ってるんですねィ」 土方さんは、やはり俺を見ていない。 先程と同じく口元に手を遣って、苦しそうにしているだけだ。 「体はホントに大丈夫なんですかィ?」 「心配すンな。お前は何も心配しなくていい。だから」 「自分の部屋に戻れば、いいんですね…」 ぐ、と土方さんが言葉に詰まったのが伝わってきて、居た堪れない気持ちで、部屋を後にした。 何かを隠して、耐えている。 それは根拠はないが、確信。 どうしても、知りたいから。 屯所中が寝静まった深夜。 きし、きし、と小さく廊下を軋ませながら、押収物が保管されている倉庫に向かった。 独特の埃っぽい臭いがする室内に、躊躇うことなく足を踏み入れ、懐中電灯で照らす。 箱が多すぎて目的のモノは見つからないかも、と、思わなかった訳ではないけれど。 「やっぱりなァ」 ひとつだけ慌てたように、液体の入った瓶が大量に押し込まれた箱があったので、これを土方さんが浴びてしまったのだとすぐに解った。 ブツを手に取ってラベルを確かめる。 説明書きを読めば、副作用を知ることができる筈だ。 吐き気や頭痛がするような成分が入っているのなら、早く中和させた方がいいに決まっている。 毒物の取り扱いの資格を持っている俺ならば――。 「――え?」 意図せず間の抜けた声が漏れてしまった。 白いラベルには猫の絵が描かれていたから、これがアタリなのは確実なのだが、文字が読めない。 「くっそ。天人製かよ」 やはり土方さんの口から、何が起きているのかを聞くしかないのか。 だが、それは絶対に叶わないだろう。 俺はこれからどうすべきかを暫し考え、結論として、瓶を一本、単の懐に忍ばせて、またもや土方さんの部屋へ向かった。 三度目の何とかだ、何とか言え土方。 どすん、と、腰を下ろしたのは寝息を立てている土方さんの上。 「う…っ」 土方さんは俺が座るまで気づかずに眠っていた。 無防備に他人に接近を許したことを情けなくも思ったが、それ以前に体が相当辛いのだろうと考え直し、流石に全体重を掛けるのをやめた。 「総悟、離れろ」 「ねぇ、何処が苦しいンです?」 「お前には、関係ねぇ」 また、酷いことを言う。 弱みを見せたくないこの人の精一杯の意地だ。 だけど。 「アンタが悪いンですぜ?」 俺は小瓶を取り出して、土方さんの目の前、己の頭上で蓋を開けて豪快に被った。 「何やってンだ! この馬鹿!」 「だって、知りてぇンだも――…ッ?」 どくん、と、心臓が大きな音を立てる。 頭がむずむずして、腰の後ろにも痒みに似た違和感が生じ、次に来たのは強烈な痛みだった。 もっと簡単にぽんっと猫になるのかと思ったのに、これは自分の骨が伸びたり変形したりして、猫耳やら尻尾やらに変わっていくのだろうか。 「総悟!」 「う、痛ェ…!」 「しっかりしろ、大丈夫か!」 俺が上に乗っていた筈なのに、いつの間にか土方さんが、しっかりと体を抱えていてくれた。 そんな土方さんの目を見て、やっと安心できたのだとは、口が裂けても言えない。 「すぐに痛みは引くからな…てか、どうすンだよ…ったく」 痛みを紛らわそうとして、土方さんがあちこち撫でてくれるのが、気持ちいい。 「なんでこんな阿呆な真似したンだ」 「アンタが、隠すから」 肩で呼吸をしながら、ぽつりと言うと、土方さんが嘆息した。 「そりゃ、隠すに決まってるだろ、こんなのは」 「でも、知りてぇンだもん」 アンタのコトなら、俺は知りたい。 なんでも知りたい。 酷く執着しているのだから。 「それに、耳も尻尾も、さっきから見えてやすよ?」 揺れている土方さんの黒い尻尾は、先程から視界に入っている。 つきんつきんと痛む俺の尾骶骨にも、きっと同じものが生えるだろう。 「問題はソコじゃねぇ…つか、まじでどうすンだ…」 「何をそんなに、困ってるンで?」 少しずつなくなっていく痛みにひとつ大きく息を吐く。 俺の具合を確かめようとしてか、大きな手が俺の頭に伸ばされてきた。 「土方さん?」 「やっぱり茶色いのな」 毛色のことを言っているのか。 どれどれ、と尻尾を手前に寄せるように動かして、成程俺は茶トラなのかと確認した瞬間。 「うあっ!?」 土方さんに触れられた耳から、びりり、と電流のようなものが体中を駆け抜けた。 それだけじゃない。 尻尾が生えている辺りにも、いや、腰全体に淫らな重さが溜まっていく。 このままでは、反応してしまう。 「土方さん、退いてくだせェ! 離して!」 何とか距離を取ろうと土方さんを突き飛ばそうした両手は、簡単に掴まれてしまった。 「離してって! 死ねマヨ野郎! 離せ!」 「大暴れだな。だから俺に寄るなっつったンだ」 「――あ」 そういうことだったのか。 「コレって、そういう…?」 「みてぇだな」 冗談じゃない。 と、言うよりも、土方さんの理性はどうなってるんだ。 いつもは何処でもサカるクセに、こんなに欲しいのに、今すぐシたいのに、何故我慢できるのか。 気を抜くと、すぐ自分の手をソコに遣ってしまいそうで、どうしていいのか解らずに半泣きになっていると、頭の上でまたも溜息を吐かれた。 「シてぇの?」 「アンタだって、同じでしょうが」 「いや、俺はイイ。お前だけシてやるから」 「――は?」 言うが早いか、土方さんは俺の体を抱え直して、胡坐をかいた自分の上に向かい合わせに座らせた。 そして、俺の単の裾を素早く捲って、勃ち上がりかけていた中心を緩く握り込む。 「あ、ちょ…っと!」 「勃ってる」 反論の余地はないのだけれど、それでも何か言わなければと口を開きかけたが、言葉は引き攣れた息に変わってしまう。 握っていただけの手が上下を始めて、俺の中心は、あっと言う間に先走りを零し、くちゅくちゅとはしたない音を立て始めた。 「うあ…あ!」 どんどん速くなっていく土方さんの手の動きに、頭も体も痺れ、傍にあった布団を掴んで耐えることしかできない。 「ん、あ…も、ひじか…もう」 「我慢すンな。ほら、イけよ」 低い声が、生えたばかりの耳に流し込まれ、はむ、と食まれる。 同時に先端に軽く爪を立てられた。 「あ、ああっ!」 こんなに早いのは恥ずかしいのにと、思う間もなく吐き出した。 広い胸に頭を寄せて、浅い息を繰り返していた俺だったが、ふとあることに気づいた。 目の前の男前が、顔を僅かに歪ませて身動ぎしたことで、足に硬いモノが触れたのだ。 「アンタも勃ってるじゃねぇですかィ」 「俺はイイんだよ」 そうは言っているが、土方さんの表情から察するに、かなり切羽詰まっていることが窺える。 何を今更、この人は我慢しているのだろう。 思って、ソレを握ったら、土方さんが息を詰めた。 「…っ」 「俺もシまさァ」 何せ、自分の体もまだ治まっていない。 どうにしろ、コレが欲しいのだから、と、躊躇することなく口に入れようとしたのだが、制止された。 「やめろ、駄目だ」 「なんでです?」 訊くと、土方さんはまた黙り込んでしまう。 ムカついたので、半ば無理やり咥えて舐め上げた。 「――そうご、ばかやろ…っ」 「はんれれふ?」 「止まンねぇだろうが!」 頭に両手が添えられて、咥えていたソレから口を外させられたかと思ったら、次には視界がぐるりと回る。 どさり、と、背中が布団について、見慣れた天井が目に入って、土方さんに圧し掛かられて、言われた台詞を反芻して、頬が燃えるように熱くなった。 「アンタ、もしかして、我慢してたのって」 「くそ」 悪態を吐くのは俺の十八番なのに、今夜に限ってそれは土方さんの口から漏れ出している。 「何のために人が我慢してたと思ってンだ」 首筋に噛みつかれて強く吸われ、跡がつくのを咎めようとしたのに、単の衿から入り込んだ手が胸元を這い回るので声にならない。 「馬鹿餓鬼が」 長い指が二本、口元に差し出される。 舐めなければさらに怒らせるだろうと、おずおずと口に含んだ。 この指に、何をされるのかは、取り敢えず考えないでおこう。 一頻り俺の舌を弄んでから出ていった指に後ろを突付かれる。 「あ、待ってくだせェ。ちょっと待っ」 「待たねぇよ。持たねぇし」 くちっと指先を埋められて、軽く動かされるが、あまりに急にコトが進んでいくので、俺は体から力を抜くことができなかった。 と、土方さんが、急に俺の耳に歯を立ててくる。 「痛ェ!」 「オイ、尻尾退けろ」 言われてから、俺は、下で動いている土方さんの手を、尻尾でたしたし叩きながら押さえてしまっていることに気づいた。 「う、できね…コレ上手く退けらんねェでさ」 たしたしするのが、自分では止められない。 「仕方ねぇな」 土方さんが呟いて、もう片方の手で俺の尻尾を退かそうと、根元からぐいと掴んだ。 「ひ、あ! ああっ!」 今まで感じたこともないような、強い快楽の波がどっと押し寄せた。 それだけで達してしまいそうになって、歯を食いしばって堪えるが、俺の様子に気づいた土方さんは容赦がない。 「あ? これ感じンのか?」 「う、ああっ。やめ…や!」 尻尾の付け根をやわやわと揉まれ、隙を衝いて奥まで指を挿れられた瞬間、情けないことにイってしまった。 「ふあ、あ…も、やでさ」 力が入らない体をうつ伏せに返されて、腰だけ高く上げた格好になる。 「ひじかたさ…コレや…あ!」 拒否しようと両腕で上半身を起こそうとしたら、後孔に熱いモノが宛がわれた。 「待って! 俺まだ…っ」 イったばかりの上、土方さんはそれほど準備をさせてくれていない。 なのに。 「あ、うああ! 痛…ッ!」 「悪ぃ、ごめんな総悟」 殆ど無理やり捩じ込まれて、息が止まった。 だけど、尻尾をくいくい引っ張られてしまうと、すぐに快楽が引き出されてしまって、それが浅ましくて嫌になる。 「尻尾ヤでさ…!」 「嘘吐くな」 土方さんの動きはすぐに速くなって、がつがつと腰を使われた。 それでも、解った。 衝動のままにならないように、この人が、必死に自分を抑えているのだと。 「ひじ、か…っ」 「何」 どうやったら土方さんが気持ちよくなれるだろうかと、ぼんやりと考え、土方さんに体位を変えてくれと頼んだ。 仰向けにしてもらってから、土方さんの腰に巻きつけた足を使って、黒い尻尾を引っ張る。 「――ッ。何してる」 「アンタも、気持ちよく、してェから」 「ヤり殺されてぇのかよ」 突然、ぐっと奥まで押し込まれたので、その衝撃から逃れようと身を捩った。 しかし、弾みでさらに土方さんの尻尾を強く引いてしまう。 俺をしっかりとホールドしていた土方さんは、抜き差しをさらに深く、速くするものだから、本当に死にそうになった。 「や、あ、あ! ひじかたさ…!」 「尻尾、放せって、馬鹿!」 かぷかぷと柔らかく耳を齧られながら、お返しとばかりに尻尾の根元から先端までをひと撫でされる。 「ひあ、あっ!」 激しい土方さんの動きに、尻尾への愛撫が加わった所為で、気がつけば俺は涙をぼろぼろ零していた。 「また尻尾でイクか? 折角だしな」 「やだ! やだやだ! やでさぁ!」 嫌だと、言ったのに。 「あ、ヤ…っ。う、あああ!」 前には触れてもらえず、尻尾を揉みしだかれて、イかされた。 一拍遅れて、熱い吐息に小さな呻きを混ぜて土方さんが達し、ナカに放たれたモノの熱さに体を震わせていると、ぎゅうっと抱き締められて酷く安心した。 だけど、二人とも全然足りなくて、腕を絡ませ足を絡ませ尻尾を絡ませて、結局空が白むまで耽ってしまった。 目覚めた俺たちは、互い顔を見て青褪めた。 「オイ、フツーこういうのって…」 「ヤったら取れるンじゃねェの…」 ぴくぴくと黒の耳が震えていて、土方さんの戸惑いが伝わってくる。 俺も落ち着かずに、尻尾をぱたぱたさせることを止められない。 そこへ、控えめな声で襖の向こうから土方さんを呼ぶ山崎の声がした。 此処に誰がいて、ナニをしていたのか解っている様子の監察は、その場で必要とされている情報を澱みなく連ねる。 「副長の…多分沖田さんもでしょうけど、その姿は好きな相手とキスすれば治るそうです」 「は!?」 「へ!?」 土方さんを振り返ると、見開かれた切れ長の目が同じように此方を見ている。 「嘘だろィ! だって俺たち…」 「総悟、待て」 情報が間違っていると、山崎に指摘しようとしたら、土方さんに呼び止められた。 「何ですかィ?」 「俺ら、キスはしてねぇ」 そう言われて、昨日の行為を最初から辿ってみると――…確かに俺たちはキスをしていない。 「ホントだ。ちゅーしてねェや」 「あんたら、キスもしないで、一晩中だったんですか…」 山崎の小さな声での盛大なツッコミを無視して、土方さんに顎を引かれるまま唇を重ねる。 くちゅ、と舌を入れられると、耳と尻尾の辺りがぞわぞわしてきた。 「それから、今日はお二人とも午後に警邏ですよね?」 「……」 「…っ」 「なるべく早く戻ってください。夕方から宴会です」 「……」 「んっ」 「聞いてます? 沖田さんのお誕生日ですからね?」 「……」 「んん」 俺の口内を思う様舐め回していた土方さんが、漸く唇を離して「そうか、誕生日だったな」と囁く。 「へィ。会席膳でいいですぜ」 応じるように甘ったれた声で昼飯を強請り、土方さんを見上げてみると、黒い耳も黒い尻尾もきれいになくなっていた。 「アンタ、あんなに可愛かったのに」 「お前はこの方がイイ。アレは俺が壊れる」 ぺろりと、人間の形の耳に舌を這わされ、そのままもう一度キスを、と目を閉じた時。 「いつまでやってんですかぁぁぁ!」 山崎が泣きながら叫んだので、土方さんと顔を見合わせて、吹き出した。 |