屯所に総悟の姿が見当たらないのは、はっきり言って珍しい。 ふらふら遊びばかりに行っているようなイメージが強いが、総悟はサボることはあっても仕事をしているし、その仕事が仕事なだけに友達というものができにくい。 それ以前に生まれ持ったドSな性格が邪魔をする。 結局非番であろうと、屯所の中で隊士をいびり倒していることや寝ていることが多いのだ。 だから。 今日のように、非番のクセに朝からまったく姿を見ないというのは、珍しい。 それも、陽が落ちようというこんな時間まで、ということは。 そして――。 「総悟見なかったか?」 俺はもう何度目になるか解らない問いを、通りすがりの隊士へと投げ掛けた。 「沖田隊長なら、中庭に」 返ってきた返事に軽く溜息を吐く。 さっき問うた隊士にはこの廊下の周辺で総悟を見たと言われた。 くるりと方向転換して中庭に向かう俺に、その隊士が声を掛けてくる。 「あの、副長…隊長はなんであんなコトになってるんですか?」 意味が解らない。 眉を顰めた俺が悪かったのだろうか、大仰に謝罪の言葉を述べたその隊士は走り去ってしまった。 「あんなコト? また悪さしてやがンな」 ぽつり呟きながら、中庭に行くとミントン馬鹿がラケットを振り回している。 「オイ山崎、総悟は?」 「あ…副長お疲れさまです」 シャトルが小気味の良い音を立てて夕陽の方向へ飛んでいった。 それを目で追いながら、煙草に火を点け、もう一度同じことを山崎に問いかける。 「沖田さんは、明日まで捕まりませんよ」 山崎は当然でしょうというようにちらりと俺を見た。 心なしか口元が微笑んでいる。 「何だそりゃ!? こっちは急ぎで用事があんだよ…ったく!」 「それ、渡しておきましょうか?」 新しいシャトルを取り出した山崎が、ふと俺の手にあった書類を見とめる。 「アイツが逃げ回ってンのは俺からだけっつーワケか」 「そういうことに、なりますよね」 悪びれもせずに言う山崎に書類を押しつけながら、ついでに先程の隊士が口にしていたことを訊いた。 「あんなコトになってるってのは?」 「ああ、それは局長が原因で、それが原因で副長です」 何故、頭痛が、するのだろうか。 「その原因ってのは面白ぇのか?」 何気なしに漏らした俺の言葉に、書類を受け取ろうとしていた山崎の手が止まる。 「一人なら確実に殺れそうですね」 そう言った山崎は、何かを思い出したかのように、ふにゃり、と笑った。 「随分と面白そうじゃねぇか。拝むとすっか」 これ以上総悟を追い掛け回そうとは思わなかったが、遭遇したらさぞ面白いものが見られるのだろう。 俺は中庭を後にして、残りの書類を近藤さんに渡そうと廊下を進んでいった。 パシッというシャトルが弾かれる音が遠ざかる。 「殺られるのって副長なんですけど」 「近藤さん、俺だ」 閉じられた襖の前で声を掛ける。 それと同時に、どたんばたんと物凄い音がした。 「オイ!?」 焦って中へ飛び込んでみたが、近藤さんはいつものようにきちんと座っていて、まずは安堵の息が出る。 「今の音は…?」 「ネズミ? ネズミかな? ネズミだよ?」 引き攣った笑いを浮かべながらネズミ活用をする近藤さんは明らかにおかしい。 しかし、それは残念なことに今に始まったことではない。 どうせまたストーカー計画でも練って、軽く実践していたのだろう。 机を挟んで近藤さんの正面に座った俺は、書類をぱさりと並べた。 話を始めた所までは良かったのだが、近藤さんが不審な行動を取っていることにすぐに気づいた。 俺が右へ傾げば平行になるようにそちらに体を傾け、左へ体をずらせばそちらに体をずらすのだ。 「近藤さん…話が進まねぇ…」 「あ、すまん」 居心地が悪くなったらしく、俺と反対の方向へ体を移動させた近藤さんの背中越しに、茶色い物体がちらりと見えた。 ふわっとした三角のそれは、どこかで見たような、見ないような…。 「何だそりゃ」 俺が言った瞬間、三角形が慌てたように引っ込んだ。 近藤さんは何処へ視線をやっているのか解らないほど動揺している。 「オイコラ出て来い!」 「ちょ、トシ何言ってんの? 総悟なんていないって!」 「近藤さん…土方さんは俺とは言ってやせん」 怒鳴る俺、焦る近藤さん、冷静なツッコミを入れる総悟。 そろり、と近藤さんの背中から這い出てきた総悟を見て、俺は絶句した。 藍白の着物に茶色の袴姿はいつもと変わらないが、総悟の頭にはちょこんと猫の耳がくっついている。 「近藤さん、あんた何考えてンだぁ!? ストーカーだけじゃ気が済まなくなったってか!?」 「変態思考は土方さんだけでさァ!」 言葉と共に総悟の蹴りが飛んできた。 その足首を空中でがしっと掴んで、退室の許可を取ると、しゅんとなって承諾した近藤さんへ総悟が酷すぎまさァ! と声を荒げた。 「だってコレ近藤さんが言ったンじゃねぇですかィ!」 「総悟…ご、ごめんね? ほらこれ今年のお前の戦利品」 俺に担ぎ上げられた総悟に近藤さんがいくつかの紙袋を手渡す。 廊下に出ても総悟は喚き続けた。 「下ろせ土方コノヤロー! 俺ァ今日は近藤さんといるんでィ!」 角を折れた廊下の奥まった位置で総悟を下ろして、煩い口を塞ぐ。 「うー! う、うー!」 まだ何か喚いているが、この際それは無視だ。 「総悟」 唇を離した俺は、込み上げる笑いをそのままに、総悟の猫耳を突付いた。 「コレ、何なワケ?」 そこで漸く俺から逃げたかったのだということを思い出したらしい総悟が猛然とダッシュしようとする。 その体を菓子の詰まった紙袋ごとひっ捕まえて、俺の部屋まで引き摺っていった。 「で?」 「Trick or Treat? でさァ…」 「だろうな」 真向かいに座らせた総悟の頭には未だ猫耳がついたままだ。 今日1日中コレをつけていられたら、近藤さんからは菓子の代わりにあるモノを貰えるという約束だったらしい。 そのため俯いた総悟はまだ猫耳を装着していた。 「ってか猫耳はイヤなんじゃなかったのかよ?」 確か去年そのことで、一瞬、酷い存在にさせられかけたような気がする。 黙り込んだ総悟の頭の猫耳は、作り物だというのに垂れてしまったように見えた。 それに触れようとした俺の手を、総悟が力いっぱい叩き落す。 「触ンねぇでくだせェ!」 「テメ…」 猫耳を両手でガードした総悟は一体何をそんなに欲しがっているのだろうか。 すっかりお留守になった脇を抱えて、ぐい、と引き寄せると総悟がきょとんと目を丸くした。 俺の意図に気付いたのだろう、焦った声が本日のお約束を紡ぎ出す。 「ひ、土方さん、Trick or Treat?」 「わり。俺、日本人だから意味わかンねぇ」 言ってから一度口吻けて、総悟が呆気に取られている間に素早く衿を寛げた。 「や…っ。ちょっと。…あっ」 露になった鎖骨にそっと歯を立てると、耳元に総悟の吐息がかかる。 「土方さん、ヤ…。俺、近藤さんといるンでさァ…んんっ!」 強気な言葉を封じるために、俺は総悟の胸まで唇を滑らせて、乳首を強く吸い上げた。 「うあ、あ!」 袴の紐をしゅる、と解くと総悟は足を必死に閉じようと力を入れてくる。 それを右足の膝で抉じ開けるようにして、晒された太股をそっと撫でれば、目の前の体が一度震えた。 すっかり着物が乱れた所で、俺は総悟の肩を押す。 多分頭を打つだろうと、左手は後頭部へと添えておいた。 「あ、も…やめて、くだせェ…っ」 とさりと畳に倒れた総悟は、言葉とは裏腹にされるがままで、俺は思わず苦笑する。 「お前さ、イイ加減手ぇ離せば?」 猫耳に両手を添えたガードの姿勢を崩していないからこその、されるがまま。 「別に俺はいいけどよ」 「よくねぇよ! …んあっ!」 きゅっと中心を握ると、制止を求めていたわりに、そこは緩く勃ち上がっているのが解り、少し手を動かせばすぐに先走りが俺の手を濡らし始めた。 「あ、う…っ。ぅああっ!」 「手」 「ヤでさァ!」 いつもなら既に俺の背中か首に縋るように回っている総悟の両手は、まだ猫耳が気になるようで、自分の頭に触れたままだ。 先端をぐりぐりと弄っていると、総悟がくっと背中を反らせ、腰を擦り付けるような仕草をしてきた。 限界が近いのだろう。 総悟の両手が気になったが、まずは望み通りに、俺の方の手の動きを早める。 「あ…あっ。ん! 土方さ…ん!」 苦しげな息を繰り返していた総悟が、大きく震えて息を詰めた。 「ぅんん――ッ!」 白濁がぽたぽたと白い肌を汚す。 それを指で掬って後ろへと滑り込ませると、息の整わない総悟から、ひ、と声が上がった。 「まじで!? ちょ…Trick or Treat? でさ! あ!」 「お前のTrickって、悪戯される方なんだな…」 そのことに少し頭を抱えたくなりながらも、一本目をつぷりと挿れる。 「やああっ!」 「や、じゃねぇよ。ほら」 イったばかりの前をそっと揉むようにしながら、後ろでくちくちと指を動かすと、途端に総悟から声が上がった。 「あぅ、ん! ひあ!」 中の感じる場所を擦りながら二本目、三本目と増やしていく内に、俺の頭に悪戯心が芽生える。 頃合いも良いので、指を引き抜いて自分を宛がった。 総悟が少し体を捩る。 「総悟」 「ん、あ……?」 「Trick or Treat?」 蕩けていた赤い瞳が見開かれ、信じられない、というように俺を見つめてきた。 そりゃそうだろう。 此処で言わなければこのまま放り出されることになるのだ。 すっかり上を向いている総悟の中心に手を添えて、一度撫で上げた。 「ひ!」 「どうすンだ?」 「…っ」 「総悟。Trick or Treat?」 畳み掛けながら中心をもう一度撫でると、焦れた総悟がぶんぶんと頭を横に振る。 「バカひじ…かたぁ…。…ぅう…ト」 「ト?」 とうとう猫耳から両手を離した総悟は、ぎゅっと目を瞑って俺にしがみついた。 「Trick…もう、死、ね…。ひ、ああぁっ!」 細い腰を掴んで押し入りながら、俺は温度を持たない総悟の猫耳に噛り付く。 「あ! へん、たいっ。触るな…あ、ぅあっ」 揺さぶられながらも猫耳に触られるのは本当に嫌なのだろう、総悟は必死に抵抗しようとするが、何せ状況が状況だ。 少し角度を変えて、弱い場所を突けば、嬌声しか上がらなくなる。 仰向けにしたままの体勢なので、自然上へと逃げようとする総悟の体を引き戻しながら深く抉った。 そうやってずるずると総悟を引き寄せていた何回か目。 「ひ、じか…た、さんっ。止まってくだ、せェ…!」 総悟が急に大声を出すので、何事かとは思ったが、此処まで来ていては止まれる訳もない。 細身の体を揺さぶり続けていると、かさ、と畳に何かが擦れる音がした。 「あっ」 小さく声を上げた総悟の頭から、猫耳が外れている。 「ンな、コトか、よっ」 この期に及んでまだそんなモノに気を取られている総悟に腹が立ってきた俺は、総悟の中心へ手を伸ばして一気に責め立てた。 「ひあ! ああ…っ。うあぁ!」 仰け反る白い首筋に赤い印を刻んで、動きを早めて総悟を追い詰める。 「や、あ、うぁあああっ!」 手のひらに総悟の二度目の白濁を感じながら、その体の奥へ同じものを放った。 「は…ぅ、死ねひじ、かたコノ、ヤロー…」 総悟の中から引き抜いた途端に悪態をつかれる。 猫耳が外れてしまった総悟は酷く不機嫌になってしまった。 流石にこれはまずかったのかと、まだ起き上がらない総悟を見ながら煙草に火を点ける。 それにしても総悟は近藤さんから何を貰う心算だったのだろうか。 行為の最中にまでそっちへ気を取られていたのだから余程のモノなのだろうが。 「なあ、何が欲しかったワケ? 子猫チャンよ」 煙と共に投げ掛けてみれば、総悟がパッと顔を背けた。 「か、関係ねぇでしょ!」 「ほーう? ヤり足ンねぇのか?」 煙草を持たない方の手で、総悟の腰骨を辿る。 「や、やっ! もうやだっ。土方さん!」 「何が欲しかったンだよ?」 力の入らない腕の抵抗を軽く払って、尚、肌に手を滑らせていると、総悟が急に俺をじっと見上げてきた。 「二連休…」 「?」 「二連休と温泉チケット」 「あァ?」 「もう、アンタがくだせェ」 「ハイハイ」 「アンタの分も」 「わーったわーった……ハァ?」 そんなモノを近藤さんへ頼んだのだろうか。 訳が分からなくなった俺の右肩に、寝ていた体勢から片足を持ち上げて、総悟が踵を落とす。 「――ッ!」 思わず俺の喉が、ひゅっと鳴った。 そこは先日総悟のバズーカを避けた時に不覚にも廊下の柱へ打ち付けてしまった場所だ。 「…いつまでも、治ってねェから…右だし」 つまり、俺を湯治に連れて行くための休みと金を俺に寄越せ、と? バカだコイツ、とは思ったが。 頬が緩む俺とは対照的に、膨れっ面をしたままの総悟へと口吻けた。 「…ぅ、ん」 手探りで外れてしまった猫耳を手繰り寄せて、漸く起き上がった総悟の頭にのせてやる。 「もう遅ェし、アンタ変態決定だし」 「耳くっつけたまま、あんあん言ってたテメェも変態だろが」 そんな会話をしながらも、総悟は猫耳を整えている。 きっと俺を温泉に沈めるだとか、温泉掘りのドリルの先端に着けるだとか、そんなことをドSオーラ満載の笑顔で近藤さんに話したのだろう。 きっちり猫耳をくっつけ終わった総悟が俺を見てニヤリと笑った。 「土方さん、Trick or Treat?」 訊いてくる総悟が堪らない。 堪らなくて。 「Treatと言うと思ったか?」 「へ? 温泉は?」 首を傾げた猫耳の総悟をぎゅっと抱き締めた。 「行く。だからBothだ。オメェのTrickは捨て難ぇ」 |