「旦那!」 亜麻色の髪の毛の少年が、待ち合わせたファミレスの奥の席からぴょこ、と頭を出して銀時を手招いた。 恐らく勤務中のサボリなのだろう、きっちりと真選組の隊服を着た沖田は、銀時が席につくなりチョコレートパフェを3つオーダーした。 「あらら、3つもいいのかな? 沖田くん」 「いいですぜ…っていつものコトじゃないですかィ」 銀時に見せた沖田の笑顔は、何の企みも持っていない純粋なものだ。 「また、よっぽどイイコト、あったんだねー」 にやりと笑う銀時の方も機嫌が悪い様子ではない。 「旦那も、イイコトあったんじゃないですかィ? その顔」 運ばれてきたチョコレートパフェを早速食べながら、銀時は大人らしい笑みを浮かべた。 「俺のコトはいーの! で、沖田くんの話って?」 促された沖田は、笑顔のまま弾むような声で話し始める。 「あの人、この前いきなり夜食に丼物、って言い出しやして」 「その前はうどんだったよね」 銀時は口に運びかけたスプーンを止めて問い返した。 「へィ」 「いきなりレベル上げてきたね」 こくんと頷く沖田に、銀時は優しい笑顔を向ける。 「でも沖田くんなら、できちゃったでしょ?」 「できやした。そしたら…」 何やら少し恥ずかしそうにしている沖田の様子を見て、銀時はピンと来たとばかりにパフェを頬張りながら言い当てた。 「アイツ、普通に食べたんだ?」 「!?」 図星をさされた沖田がきょとんとなって銀時を見つめる。 「そりゃ嬉しかったでしょー?」 「…へィ」 銀時はふと沖田の前に置かれているアイスティーを見た。 まったく量が減っていない。 余程この話がしたくて飲むのを忘れているのだろう。 暫しの間を置き、銀時は少し意地の悪い笑みを浮かべて沖田の至近距離に顔を寄せた。 「で、どうだったの?」 「何がですかィ?」 急に顔を寄せられた沖田が驚いたように問い返す。 「キス」 「へ?」 「マヨネーズの味、しなかったんでしょ?」 「……そりゃ…しやせんでしたけど…」 銀時が指摘すると沖田は下を向いてしまった。 「…それよりさ、前からちょっと気になってたんだけど」 続けられた銀時の声に、少しだけ沖田が顔を上げる。 「あの所帯の中でするのって、かなりスリリングじゃないの?」 「……す、するって。スリリングって…っ。旦那っ!?」 沖田は何を思い出したのか茹蛸のようにみるみる赤くなっていく。 「声とかさ。誰か入ってきちゃうかもしれない、とかさ」 「な…っ!」 真っ赤になって声を失っている沖田を見て銀時は吹き出し、近づけていた顔を離した。 「で、も…」 「うん?」 「やっぱり、好きなんでさァ」 「うん」 「あの人が、いいんでさァ」 「うん」 「あの人じゃないと、ダメなんでさァ」 「そうだね」 「なんでですかねィ?」 「そーゆーモンなんだよ」 秘密の恋をしている少年は、嬉しさや切なさを打ち明けられる相手を持っていない。 だから以前から時々銀時にだけこうした話をするようになっていた。 最もいち早くその状態に気づき、意地になって沖田の口を割らせたのは銀時なのだが。 そこへドカドカと大きな足音を立てて話題になっていた人物が現れた。 「…テメェはまたサボリかァ!」 「ひっ! 土方さん!?」 「あらら」 全員が一斉に違う声を上げた。 「総悟、帰ったら解ってるだろうなぁ?」 銀時を睨みながら沖田に低い声で言い放つ土方は、沖田が銀時と会っていたということについて酷く怒ってしまっている。 それでも沖田は土方に話を聞かれていなかったことにほっとしている様子だった。 土方に腕を掴まれながらファミレスを後にする沖田が、銀時を振り返って少しだけ笑う。 銀時も沖田に小さく手を振って、次に呼び出されるのはいつだろうかとくすりと笑った。 何事にも動じないというような表情の中に、土方の行動で一喜一憂する一面を持っている沖田は、正直可愛らしいと思う。 銀時はそろそろ土方の方に止めを刺してやろうかとチョコレートパフェを突付きながら考えてみた。 |