意味がなさそうに見えて、意味を隠し持つ夜が、ある。 いつもは不躾にスパンと開かれる俺の部屋の襖が、まるで夜の静けさに合わせたかのように、静かに引かれた。 総悟は、部屋に入るのすら、躊躇っている。 「なんだよ?」 俺の問い掛けにやっと総悟は部屋に入って襖を閉めた。 だが、俺を見ようとはしないし、近づこうともしない。 「…総悟?」 名を呼ぶと、総悟が弾かれたように顔を上げた。 赤い瞳が、ゆらり、揺れる。 一度顔を上げたらそれで良かったのか、総悟は俺が座っていた文机の前まで歩いてきた。 …静かに音を立てず、黙ったままで。 俺の横まで来た総悟は、膝立ちまで腰を落としたが、座ることをしない。 様子のおかしな総悟にどう声をかけたものかと考えた瞬間、総悟の両手が俺へと伸びてきた。 「な…っ」 言いかけたが、言葉にならない。 俺の頭は総悟の胸元に抱えられて、さらに上から総悟が顔を埋めてきたのだ。 「…どうした、総悟?」 突き放す理由も見当たらないので、抱き込まれたまま問う。 「…そんなの…」 ぽつり、と総悟の声が降ってきた。 「知らなかったんでさ…」 嗚呼、と思った。 「お前、知ったのか。ガキの俺」 ぎゅ、と俺を抱く総悟の力が強くなる。 「お前が知ったら、こうすると思ってたぜ」 総悟が、息を詰めた。 「だから、俺はお前に、言わなかったんだ」 ドSは打たれ弱いからな、と付け足すと、軽く頭を叩かれた。 総悟を無理矢理見上げると、ゆらりゆらりと、まだ瞳が揺れている。 「なんつー顔してンだよ。やっぱり茨と知ったら、花ぁ傷ついちまったな」 嘆息した俺に、総悟が怒った顔をした。 「失礼な男でさァ。俺ァ、花なんかじゃ、ありやせん」 「…だけど、そのツラ、酷ぇしなぁ…」 「そんなに花にしてぇなら、アスファルトに咲く花、言いなせェ」 俺は、売り言葉に買い言葉で普段の調子に戻ろうとする総悟の腰を、引き寄せた。 総悟の体が、ぴくりと、反応する。 「アスファルトに咲くほど逞しかろうが、花、なんだよ。辞書引いとけ」 ぐいと総悟を押し倒すと、驚くほど大人しくその体が倒れた。 俺は総悟に軽くキスをして、後はその胸元に、ただ顔を埋めた。 「…土方さん?」 「黙ってろ」 総悟の両手が俺の髪に差し込まれる。 「土方さんってば!」 その手が思い切り俺の髪を引っ張った。 「痛ってぇ………っ!?」 抗議のために顔を上げると、無茶な体勢から総悟がキスをしてきた。 「…仕方ねぇんで、アンンタにも、咲いといてやりまさァ…」 そう言って総悟は、俺の頭を元に戻す。 「だから、アンタも、ンな顔しねぇでくだせェ。――俺に知られたくれェで」 どちらからともなく、軽い笑いが漏れ出した。 意味がなさそうに見えて、意味を隠し持つ夜、なのかもしれない。 |