※前・幻鎖恋の時の作品なので銀高設定になっています。 行きつけのファミレスで好物のイチゴパフェを頬張っていた銀時の、上昇傾向にあった気分が急降下した。 前方から歩いてくる着流しの男の所為だ。 その着流しの男――土方十四郎――も銀時を見つけるなり表情を強張らせる。 しかも何の因果なのか店内は満席状態で、二人は隣り合う状態で座ることになってしまった。 (よりにもよってデートの前にコイツだけには会いたくなかった!) 二人は同時に奥歯を噛み締めた。 「で、お宅こんな所で何してんの?」 銀時はとんでもなくファミレスに不釣合いな私服の土方が少し気になった。 「何でもいいじゃねぇか。テメェこそ何してやがる」 「俺? 俺はデェトの待ち合わせ? 羨ましいでしょ?」 土方は目を丸くしながら煙草に火を点ける。 「…テメェの相手するなんざ、随分変わったヤツがいるモンだなァ」 「とか言っちゃって、お前だってデェトなんでしょ?」 「………」 無言で煙草の煙を吐き出した土方はイライラとした様子でコーヒーをオーダーした。 そんな土方を横目で見ながら銀時はにやにやと笑う。 「で、お前の相手って、どんなよ?」 「ハァ!?」 むせそうになっている土方を他所に、銀時は一人呟いた。 「俺んトコのは、こう、色気? もう凄いンだわ」 イチゴパフェを突付きながら銀時は続ける。 「もー駄々漏れ。やっぱ美人を持つと得だよねえ?」 だらだら喋る銀時に、土方のイライラが更に募ってきた。 「…俺ンだって可愛いぜ? 色気もあるっちゃあるしな」 「あらら、そうなの? でも俺んトコには負けるよー」 仏頂面だった土方がコーヒーを口に運んでにやりと笑う。 「そうでもねェと思うがな」 銀時はイチゴパフェを一口掬って遠くを見つめた。 「はあー。だってアイツって、一見するとツンケンしてるけど淋しがりなトコあってさー。そのギャップ? 超可愛いから!」 「その辺なら負けねェな。アイツも一見メチャクチャだが、俺には甘えてくるしな」 「ふーん?」 意外と言うように土方を見る銀時に気づかないのか、土方は言葉を続ける。 「滅多にねェが、酔うと凄ぇカオになるし」 「それ! 俺のトコも凄いよー」 徐々にヒートアップしていく二人の恋人自慢だったが、一瞬の間が降りた。 「涙目でメチャメチャ可愛い」 銀時が小声で土方に耳打ちする。 「感度は良好だな」 応戦するように土方も返す。 「もー堪んない。小動物みたいに震えちゃって」 土方はニヤける銀時を少し追いやった。 「確かに普段からは考えらんねぇな。アイツ俺しか知らねぇし」 その距離を詰めて銀時は更に言い募る。 「泣いちゃうまでしちゃったりしない?」 「あー、よく泣かせちまうなぁ」 土方が少し苦い顔をして続けた。 「だが、あん時ばかりは破天荒じゃなくて可愛いンだがな」 「でも中々素直になってくれないんだよー」 話が妙な方向で噛み合っていく二人は、暫しぼんやりとした。 やがて銀時が口を開く。 「声、我慢しちゃってさー、可愛いの」 「こっちは我慢させるのが大変だぜ…」 ぼそっと呟いた土方に銀時は少し不思議そうな顔をする。 「へーえ?」 到底ファミレスでするような話ではなくなっている状態に気づいた土方が、銀時から離れてコーヒーに口をつける。 「とにかく、アイツがイイのは確かだからな」 「いや! 俺のトコのがイイね! だって色白くて黒髪が映えて、すっげえ目がキレイだし!」 「あん? 色? 色ならアイツも白いし薄いぜ? 目もでけぇしな」 「やっぱ大人の色気が一番だねー」 「ガキが見せる色気も凄ぇぞ?」 「細いもんね!」 「細いな」 「本人自覚してないけど、実は表情結構変わるんだよー」 「確信犯で表情自由自在。けしかけて来たりするな」 銀時はじたばたと手足をバタつかせた。 「あー早く会いたいー!」 「………」 毎日相手と顔を合わせている土方には、答えようがなかった。 目を逸らした土方を見て、銀時がにやりと笑う。 「可愛くて堪らないよねー」 「可愛いっちゃ可愛いが…」 土方は煙草を灰皿に押し付けながらぼそりと呟く。 「あー…本当、好きなんだよねー」 「まあ、な」 「本当、イイんだよねー」 「まあ、な」 「本当、愛しちゃってるんだねー」 「……まあ、な…?」 何かがおかしいと感じた土方が銀時へ視線を送る。 するとここ一番とばかりに、にたーりと笑っている銀時と目が合った。 「そーんなに好きなんだ? 沖田くんのコト」 瞬間、土方の顔は青ざめ、永久に溶けないのではないかという程の勢いで凍った。 |