月下香

※お題「嫉妬土方さん」「言葉責め」
総悟が嫌がる行為を無理強いする場面が含まれます。
特殊な設定の本だったので閲覧の際はご注意ください

 蒸し暑い、そう思いながら、隊服のスカーフを抜く。
 くだらない会合に付き合わされ、心身共にぐったりしていたため、着替えることすら面倒になっていて、服はそのまま、取り敢えずはと煙草に火を点けた。
 ゆっくりと煙を吐き出し、気持ちを落ち着ける。
 紫煙が本来の自分の匂いを取り戻してくれるまで、殊更じっくりと味わった。
 散々女にべったりされていた所為で、すっかり白粉臭くなってしまっているのだ。
 此処がもし屯所だったら、あの亜麻色の機嫌は地の底へと落ちてしまうだろう。
 今回の京への出張は、当初は五日間の予定だったのに、その五日目の今日、二週間に延長されてしまった。
 総悟とは屯所を出てくる前に飽きるほど抱き合ってきたものの、いざ触れられないという物理的な理由が生まれると、漠然とした焦燥感が湧き上がってくる。
 このことを総悟に伝えても、恐らく「一生帰ってくるな」と、いつもの軽口を叩かれるだけに違いない。
 思ってはいても、破壊活動をしていないか、俺の部屋は無事なのか、そんなことを口実にしようと胸ポケットの携帯電話を探った。
 ひらり、と、花名刺が落ちる。
 座敷で出会った舞妓に貰ったものだ。
 まだ幼さの残る整った顔立ちをしていたが、国家権力が絡む宴会に現れたということは、一般的なそれとは異なる。
 つまり、あの舞妓は、反則的な意味で以って、俺の相手をするように言われたのだろう。
 それに釣られる程愚かではないし、興味もない。
 蝶が描かれた桃色の小さな紙切れを一瞥し、携帯電話のディスプレイに表示された見慣れた番号へ電話を掛けた。
 ところが、総悟はなかなか電話に出ない。
 すぐに留守番電話に切り替わらないということは、何か出られない事情があるのだろうか。
 部屋の時計を確認するが、まだ寝るには早い時間だ。
 そのままコールし続け、漸く繋がったと思ったら、いきなり溜息を吐かれた。
 『…何か用ですかィ?』
 問い掛けてくる総悟の声が、少し掠れている。
 「なんとなく…ああ、出張が延びたンだ」
 告げると、総悟は黙り込んだ。
 息遣いだけが電波にのって此方に伝わってきたが、様子が妙だと感じた。
 「総悟? どうした」
 『…なんでも、ありやせんよ…』
 平静を装っているが、微かに呼吸が乱れているのを、俺が見逃すとでも思っているのか。
 「お前、具合悪いのか?」
 尋ねた瞬間、総悟が纏う空気が凍る。
 そして、絞り出すような声で『死ね馬鹿土方クソ野郎!』と早口で言うと、ぶつっと電話を切ってしまった。
 おかしい。
 何かあったのだと、確信した。
 慌てて電話を掛け直したが、もう、総悟は出なかった。
 俺の中で、意地でも出張を繰り上げて、屯所に帰ることが決定した。

 予定を変えたことは、総悟には言わなかった。
 と、いうよりも、言えなかった。
 その日以来、総悟に電話をしても繋がらなかったし、俺には、そもそもそれ程電話を掛けている時間がなかった。
 滞在中に会わなければならないお偉方を片っ端から訪ね、酒宴に付き合わされては、ぐでぐでに酔わされる。
 そんな状態になりながらも書類を認めていたため、電話どころではない。
 だが、その甲斐あって、二週間に延長された出張が、十二日目には終了した。
 二日早まった屯所への帰り道、汽車に揺られながら総悟に会うことばかりを考えた。
 俺の帰りが今日になったことは、近藤さんと監察方、そして念のために原田には伝えておいた。
 ただし、それを総悟には教えないように頼んだ。
 折角だから驚かせようと思ったのだ。
 どんなにアイツが巧く隠した心算でも、何処かで嬉しがるのは解っている。
 例えば、此方が 「ただいま」と言えば、結局 「お帰りなせェ」と答えてしまうのだとも。
 例えば、帰ってきた途端に抱き締めれば、何かを確認するようにあちこち触るのだとも。
 例えば、頼まれた通りに買ってきた八ツ橋を渡せば、横を向いたまま受け取るのだとも。
 総悟の反応を思い浮かべては、悪戯を仕掛ける子供のような気分で、江戸までの道中を過ごした。

 ターミナル近くの駅に着いたのは、日暮れを迎えるような時刻だったが、駅舎を一歩出ればこの季節に相応しく、むっとした暑さが立ち込める。
 「京に比べりゃいくらかマシか」
 一人言ちてタクシーを拾う。
 迎えを呼んでもよかったのだが、パトカーと共に総悟本人が寄越されてしまう確率を考えての選択だ。
 タクシーに乗り込んだ途端に、白い手袋をした初老の運転手が、声を掛けてきた。
 「副長さん、お出掛けでしたか」
 「まあな」
 「それはお疲れでしょうね。でもその顔は、イイコトでもありました?」
 「イイコト? あるとしたら今からだ」
 ミラー越しに運転手と目が合って、微笑まれてしまったので、多分誤解されたと笑いそうになる。
 「デートですか! 羨ましいですな!」
 この運転手、俺が一度屯所に荷物を置いて、また街に出ると思ったのだろう。
 そりゃそうだ。
 まさか、屯所の中に相手がいるとは思うまい。
 況してやそれが、あのサディスティック星の王子だとは。
 堪え切れずに笑みを漏らした俺に向かって、運転手が呟いた。
 「可愛い人なんでしょうなぁ」
 「ああ、可愛いよ」
 こういう風にささやかにしか、恋人としての総悟の自慢などはできない。
 余計に早く会いたくなって「少し急いでくれ」と言うと、運転手も笑いながらアクセルを踏み込んだ。
 そのままいいように揶揄われつつ、屯所の門前に滑り込んだタクシーを降りた俺を見て、番をしていた二人の隊士が目を丸くする。
 慌てて中に駆け込んで報告しに行こうとするのを引き止めた。
 「いい。今夜は驚かせてぇンだ」
 「そうなんですか?」
 頷きながら玄関に入り、ブーツを脱いで広間へ行くと、いつもより閑散としていると感じた。
 いや、人数はそれなりにいるのだが、総悟や山崎、その周辺の隊士たちが見当たらないのだ。
 そして。
 現在広間にいる隊士たちは、完全に「ヤバイ」という表情で俺を見ている。
 「オイ」
 声を掛けた途端、方々から悲鳴に似た声が上がった。
 「此処にいねぇ奴らは、何処で何してる?」
 問いにはなかなか答えはなく、俺は苛々しながら同じことを語気荒く繰り返す。
 すると、ややして隊士たちがひそひそと言葉を交わし始めた。
 「あの」
 「おい、やめろって」
 「でも言わないと切腹だろコレ」
 「そうだよな」
 「別にそれ自体は悪くないし」
 「だけど沖田隊長もだぞ?」
 「あの人、未成年だろ?」
 どうやら総悟が関わっていることは解った。
 眉を顰めてじっと待っていると、漸く話す気になったらしく、隊士の一人がぽつりと言った。
 「皆で、AV観賞会やってます」
 「――どの部屋だ」
 俺の声は、きっと、氷よりも冷たかったに違いない。

 総悟には。
 総悟には、そういうものを、あまり見せたくはなかった。
 それは俺だけでなく近藤さんも同じで、総悟もなんとなく雰囲気を察してなのか、普段は興味を示さない。
 勿論、近藤さんの思いは俺とは違う。
 近藤さんのそれは、純粋に親が子に抱くような教育的なものであり、俺の邪な考えとは懸け離れている。
 俺は、娯楽的に作られたモノを見て、一時的にでも、総悟が女に興味を持つコトが怖かった。
 何よりも、俺を受け入れている側の総悟が、自分が女のように扱われていると思い込んでしまうのが嫌だった。
 「此処です…」
 問題の部屋まで俺を案内した隊士二人は怯えきった目をしている。
 それに構わず、力任せに襖を開け放つと、中にいた全員が此方を振り返って、青褪めた。
 「ふ、ふくちょ…っ」
 「オイ、総悟は? いるンじゃねぇのか?」
 暗かった室内に電気を点けさせ、DVDを停止させるように指先で指示を出す。
 しかし、亜麻色が何処にもいない。
 「え? あれ? 本当に沖田隊長、何処だよ?」
 「ほかにも何人か、いなくなってないか?」
 「あ、仲良くヌキに行ってるとか」
 「いいなあ! 俺も隊長と…ふがっ」
 言い掛けた隊士の口を押さえたのは山崎だった。
 「ふ、副長。沖田さん、具合悪いとかじゃないですかね…?」
 そんな訳があるか。
 怒鳴り散らしたくなったが、ぐっと堪える。
 冷や汗だらだらの山崎は、屯所では唯一、俺と総悟の事情を知っている人物だ。
 ほかの隊士の迂闊すぎる言葉に気を遣っているのだろう。
 「…兎も角、解散しろ」
 俺のひとことで、観賞会は終了となった。
 静かな馬鹿騒ぎが行われていた部屋から、総悟の部屋までは距離がある。
 すべての空き部屋の前で聞き耳を立てている俺はどうかしているだろうか?
 しかし、先程数名の隊士と共に総悟が消えていると聞いてしまってから、嫌な予感しかしていない。
 脳内で、総悟が情事の時に浮かべる艶めいた貌が、熱い吐息が、零れる声が、忠実に再生される。
 あの凄まじい色香は、片鱗であったとしても、見せられた男は堪ったものではないだろう。
 一番隊隊長が、そう易々と手篭めにされる筈はないと思ってはいるのだが、もしも総悟の方から、自分では収拾がつかないなどと阿呆なコトを言い出していた らと気が気ではない。
 結果として、何事もなく総悟の自室に辿り着いた時には、安堵の溜息が長く漏れた。
 総悟、と、中に声を掛けようとしたのだが、部屋が異様に静かなのが気になって、悪いと思いつつそっと襖を引く。
 室内に総悟がいることはすぐに解った。
 廊下から差し込む明かりと枕元の行燈が照らす布団の山から、はあはあと息を吐いているのが聞こえているのだ。
 ずかずか歩み寄って掛け布団を引っぺがして、瞠目した。
 其処には。
 既に相手はいなかったものの、行為に没頭していたのだとありありと解る程に目元を真っ赤に染め上げた総悟が、乱れ放題の単の前を掻き合わせて、小さく丸 まっていた。
 「あ…あ。ひじ、か…なん、で?」
 俺の姿を認めた総悟の貌が恐怖を湛えて、引き攣っていく。
 「――…てめぇ…っ」
 気がついた時には、俺は総悟の胸倉を掴んで上半身を引き上げ、丸い頬を思い切り張り飛ばしていた。
 「痛ッ」
 綺麗な顔が、痛みに歪むのさえ、反抗的に見えて腹立たしい。
 勢いよく総悟を布団に叩きつけた。
 余韻で力が入らないのか、簡単に布団に沈む体に圧し掛かって、制止を求める総悟に構わず、無理やり足を広げさせる。
 後ろを弄るとソコは予想通りに柔らかく、俺の指を三本とも、いとも容易く飲み込んだ。
 「う、あ…あっ」
 「ヤらせやがったな!?」
 総悟がぶんぶんと首を横に振る。
 「こんなにしといて、何言ってやがる!」
 「ひ…っ」
 言い様ナカをぐるりと掻き混ぜると、総悟が悲鳴を上げた。
 「そういや、てめぇは電話の時も様子がおかしかったな…まさか」
 あの時も、男に足を開いて、啼いていたのか。
 ばさばさと亜麻色の髪を散らせて、無様な否定を続ける総悟を見下ろす俺の中には、この裏切りへの憎悪しかなかった。
 指を抜き、引き千切るように単を剥ぎ取って、その体をまじまじと見る。
 視線に耐えられないのか、総悟が体を縮込めようとしたが、そんなことは許さない。
 この肌に、俺以外の男が触れたのだ。
 手早く自分の隊服のジャケットを脱いで、スカーフを放り投げ、もう一度総悟に覆い被さった。
 そして乱暴に白い首筋に噛みつく。
 「俺ン時みてぇにヨガりまくったのか!?」
 果てたばかりだろう総悟の中心を握り込み、容赦なく上下に扱く。
 「ひあ! ヤ…やめ、やめてくだ…ああ!」
 総悟の両手が刺激を与える俺の手を押さえようと伸ばされてくるが、空いている方の手で一纏めにして封じた。
 イヤだイヤだと首を振り続ける総悟に無理やり口吻けて、舌を捩じ込み口腔を舐め回す。
 「ふ、う…ん、んー!」
 と、それまで柔らかかった手の中のモノが、少しずつ芯を持ち出した。
 くちゅり、と音さえ聞こえ始めて、あっという間に俺の手は、総悟の先走りで濡れそぼった。
 「お前、今犯されてンだぞ、解ってるのか?」
 「う、うう…あ」
 「おっ勃てやがって――この淫乱」
 詰る言葉に総悟がぎゅっと目を瞑る。
 だが、そんなことをしても、既に火が点いている体が治まる筈はない。
 どんどん硬く主張するソレを、追い立てるだけ追い立てた所で、俺は根元を握り締め、放出できないようにした。
 「あああ! やだ! やでさ…ァ!」
 総悟がコレを本当に嫌がるのだと知っていて態とやった。
 まずは、堰き止めたままでイかせてしまえと思い、先端を咥えようと身を屈めた時。
 亜麻色の髪が散らばっている辺りの敷布団に小さな違和感を覚えた。
 何かを下に入れてある。
 気づかれないように総悟の両手の戒めだけを解いて、其処へそっと片手を差し込み、固まった。
 無機質な感触、でこぼことしたラバーと、スイッチ。
 コレは、もしかしなくても。
 ふーふーと息を吐いて、快楽を遣り過ごそうとしている総悟を見つめる。
 電話の時も、今も、コイツは一人でシてたのか。
 ――後ろに玩具を突っ込んで。
 それなら、こうして強引に進められても、反応するのは当然だ。
 痴態を想像して、頭が痛くなってきた。
 総悟は俺を想っていたのだろう。
 だが、俺は、総悟が自分を思って及んだコトに、興奮を抱きながらも何故か苛立っていた。
 疑問を総悟ごと暴こうと、玩具から一度手を離す。
 「総悟」
 呼び掛けると、薄らと開いた赤い瞳が俺を見上げた。
 「お前、一回イったンだろ? なのにこんなで恥ずかしくねぇの?」
 「う、く…っ」
 「でも、もうイきてぇよな? だったら、言うことがあるだろ?」
 総悟には、俺の言葉の意味がよく解らないようだった。
 それでも爆発寸前なのだろう。
 両手が未だ押さえつけられている自身へ触れ、どうにかしようと必死になっている。
 その手を払い退けて、言葉を続けた。
 「ちゃんとお願いしろよ」
 「ヤでさ…っ」
 「なら、このままでぶち込んでやろうか? オモチャがイイんだよな?」
 総悟の目が真ん丸くなったかと思うと、白い肌にさあっと朱が差す。
 自分がしていたコトのすべてが露見しているのだと知り、カタカタ震え始めたのが可愛い。
 「ひじ、ひじかたさ…」
 「何」
 「ひじかたさん…!」
 「何だよ」
 いつもなら、こうして名を呼ばれれば、すぐに叶えてやるのだが、今夜はどうしてもできなかった。
 コイツが悪い。
 「……て、シて」
 負けた総悟が口にした言葉にさえ、満足しない。
 「何を、どうするんだ?」
 赤い瞳がそっと伏せられ、長い睫毛がふるりと震えた。
 「お、俺の…イか、せ…くだ…」
 最後の方は聞き取れなかったが、此処まで言えればまずは及第点だろうと、可哀想なコトになっている総悟の中心を解放して口に含む。
 途端に総悟は背を撓らせた。
 独特の苦みを味わった後、見せつけるように嚥下して、顔を覆おうとしている両手を外させる。
 「コレでイイのか?」
 終わらせるぞと臭わせると、総悟が微かに口を開いた。
 「う…ヤ、ヤでさ…」
 足りていないことなど解っているし、何より俺が済んでいないのだから、これで終了は有り得ないと双方が解っている。
 次のコトをしない俺に、総悟はきゅっと唇を引き結んで堪えるような様子を見せたが、それも長くは続かなかった。
 「続き、シてくだせ…ぇ」
 そっと後ろへ指を滑らせるとソコがひくりひくりと蠢いているのが伝わってくる。
 軽く突付いたのを合図に、総悟が蚊の鳴くような声で言葉を連ねた。
 「いじ、弄っ…ソコ…あ、うあ」
 「自分で弄って、オモチャ突っ込んで満足じゃねぇの?」
 ぐっと指を差し入れて、弱い部分を撫でたり押したりしながら問い掛けると「ひじかたさん」とまた呼ばれた。
 時間を掛けて虐め続けていたから、相当焦れたのだろう、総悟が再び言葉を口にした。
 「指…もっと」
 「もっとどうすんだよ?」
 「いっぱい」
 「総悟のココにいっぱい挿れンの?」
 こくりと頷く総悟は陥落間近だ。
 乞われるがままに指を増やせば「もっと、もっと」と、うわごとのように繰り返し、自分から腰を揺らし始めた。
 「いつもより感じてンじゃねぇ?」
 「ちが、や…」
 細い声が必死に否定するものの、挿れている指がきゅうっと締めつけられたことに、口の端が上がる。
 「言われるのがイイのか? すげぇ締まったぜ?」
 「やだ、もう…やめ、くだ…せっ。あ、あ!」
 やめて、と言いながらも、当の総悟が腰を動かしているのだからどうしようもない。
 これまでも、散々乱れた姿は見てきたが、そのどれよりも淫猥な姿に、此方の我慢も限界になる。
 「欲しけりゃ、しっかり足開け」
 落ちろ、落ちろと、酷い言葉を連ねる俺の前で、無駄な肉のついていないすらりとした足が、少し震えながら布団を蹴った。
 「ひ、ひじか…」
 「ドSっつーよりドMだな。ちゃんと見せろ、欲しいンだろ?」
 抜いた指の代わりに宛がわれたモノに気づいた総悟が、目を見開いて暴れようとしたが、そのまま強引に押し込んだ。
 「ソレ、ヤ…嫌でさ! ひじかたさ…あ、うあ!」
 俺が挿れたのは、自分ではなく、敷布団の下に隠してあった玩具だ。
 「う、ああ! 取って! 嫌だ!」
 「挿入ってりゃ満足なんだろうが。滅茶苦茶美味そうにしてンじゃねぇか」
 「ヤ…ヤ…っ。土方さん! ひじか、さ…!」
 玩具を軽く前後させながら、総悟の耳元に唇を寄せる。
 「こんなのがっつり咥え込んで…あんあん言って恥ずかしいヤツだな」
 「あ、ああ! ヤ、やめ…っ」
 「さっきまで、てめぇで突っ込んでたンだろうが」
 かち、とスイッチを入れると、総悟の体が仰け反った。
 「オモチャでイクのがイイんだろ?」
 「違う…ひじかたさん、違いまさ…あう!」
 何が違っているのかなど解りきっているのだが、敢えて「解ンねぇ」と耳に口吻けながら囁くと、総悟は俺の手を掴んで、無理やり玩具を抜いてしまった。
 そうして、とうとう泣き出して、ぎゅうぎゅう俺にしがみつき、落ちた証のひとことを、もう躊躇うことなく口にした。
 「土方さんのを、挿れてくだせぇ」
 「ヤラシイ、総悟。もっと言えよ」
 「俺のココ。ココに挿れて…土方さんの、挿れてくだせぇ」
 「オイ、そんなにしたら、俺の服ベタベタになるだろが」
 ぐずぐず泣いて下半身を押しつけてくる総悟には、もう俺の声はあまり届いていないようだった。
 先程から痛んでいた俺の頭は、今や脈打つようになっていて、ああもう自分も限界だとベルトを緩めてそそり立つ己を総悟の入口に擦りつける。
 「ふ、ああ…っ」
 「総悟、コレどうする?」
 「挿れて、ぐちゃぐちゃ、してくだ…もうやだ…やだ…」
 総悟のイヤイヤが再び始まったが、今度のイヤだは、思う通りに与えてもらえないのが、最早苦痛になっているからだと解るので、お望み通りに細い腰に手を 添えた。
 「ド淫乱が。オラ、しっかり咥えろ」
 言いながら押し入ると、総悟が一際大きな声を上げた。
 痙攣を起こしたようになっているが、構わずに突きまくる。
 「ひ、ああっ! あ、あ!」
 「気持ちイイか? あ? どうだ?」
 「う、う…ん!」
 頷きながら、ひく、ひくと、体を震わせる総悟が可愛くて、つい加減を忘れてしまう。
 奥まで捩じ込んで、抜けるぎりぎりまで引いて、また押し挿れる動作に合わせ、総悟が白い裸体をくねらせる。
 「いいぜ、もっと腰振れよ」
 「あ、うあっ。あ!」
 すっかり勃ち上がっている前を撫でると、悲鳴じみた嬌声が漏れ出し、もう絶頂を迎えるのだと解った。
 同時に、自分が一体何に苛ついているのかも理解した。
 俺は、例え玩具であっても、この体に、俺の許可なく勝手に侵入したのが嫌だったのだ。
 だから今、総悟には、しっかり自覚させなければ。
 「総悟、誰に何をされて、どうなるのか言え」
 根元を握り込む仕草をすると、先程の苦しさを思い出したのか、総悟は逃れるためにソレを言った。
 「あ…土方さんに…」
 「俺に?」
 「…奥、奥まで…され…っ」
 「うん?」
 がんがんと突き立てながら、言葉の続きを待っていたら、突然総悟が体を強張らせた。
 「あ! イッ…あああっ」
 幾分薄い液体を飛ばして、くたんと弛緩した体を抱え込んだ俺は、尚も揺さぶり続けた。
 総悟はぼろぼろ涙を零しながら「もうできない」と何度も繰り返していたが、結局それから俺が吐き出すまでにもう一度達した。
 ただ、その時には殆ど何も出ておらず、強烈な快楽に大きな目をさらに大きくして「こわい」とだけ呟いた。
 そんな総悟の姿に、俺の心は漸く、そして、酷く満たされた。

 ぐったりしてしまった総悟の体を拭ってやりながら、やり過ぎたと思ってそろりとその表情を窺った。
 しかし、あまりにも蕩けた貌をしていたので、コイツも満更ではなかったのだと悟る。
 「で? オモチャとどっちがよかったよ?」
 「…死ね土方。もげちまえ」
 総悟の声はがさがさと枯れてしまっていた。
 「もげたら、また、オモチャでやんのか?」
 「煩ェ!」
 今の今まであんなにも従順に、過ぎる快楽に泣き叫んでいたというのに、もうこれだ。
 面白くないので、横臥している総悟の目の前に、どろどろになった玩具を突き出してスイッチを入れた。
 うぃぃんと音を立てて動き出したソレを見て、総悟は整った眉を八の字にして顔を背けようとする。
 その顎を掴み、蠢く玩具を見せつけた。
 「お前のナカで、こんななってたンだな」
 「マジで死ね!」
 羞恥にぷるぷると震え出し、今にも殴り掛かってきそうな勢いだが、そんな力が残っているような抱き方をしてはいないので、その点は安心だ。
 部屋には暫くモーター音だけが響いていたが、総悟が体液べったりの布団に潜り込もうとしたので、スイッチを切った。
 「も…やめてくだせェ」
 一人で耽って、それを見つかり、虐め抜かれて、この有様。
 プライドだけは高いから、余計にダメージが大きかったようだ。
 もっとも、そのプライドの高さとドSが併せ持つガラスの剣の所為で、一歩間違った場合には、あそこまで乱れまくるのだろうが。
 先程の行為を思い出しつつ、自分の身形を整える。
 「お前さ、AVで勃ったの?」
 「……」
 「なのに、後ろ使って、俺のコト考えてしたのか?」
 質問に返事はなかったが、総悟が次に漏らした台詞が肯定していた。
 「ア、アンタは出張中、しなかったンですかィ?」
 「した」
 持ってきたままだった鞄をごそごそと漁りながら、素直に答えてやる。
 総悟はそんな俺をぽかんと見つめていたが、自分がオカズにされていた事実が漸く頭の中で繋がったらしく、怒りなのか照れなのか、兎に角、顔を真っ赤にし た。
 俺は目的の箱を見つけると、それを片手に総悟に起きるように言い、ぎゅっと抱き締めた。
 「ただいま、総悟。ほら土産」
 瞬間、総悟は小さな声で「クソ」と零した。
 しかし、次にはいつもと同じように俺の体を触り始め、無事を必死に確かめる。
 今しがた、酷い交わり方をしたというのに、可愛い真似をする。
 「お帰りなせェ…」
 そうして、ぷいと横を向いて、八ツ橋の箱を奪い取った。

                               2015.6.28

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