ゆらり。 警邏中に俺の前を歩く亜麻色が、一瞬、揺らいだ気はしたのだ。 「あれ? 沖田さん、来ませんね」 夕食時の食堂で、山崎が辺りを見回してポツリと言った。 釣られて目だけで総悟を探せば、確かにいない。 「山崎、薬」 土方スペシャルをかっ込みながら、そう指示を出す。 「えっ? 副長、具合悪いんですか?」 「俺じゃねぇ」 「えっ? ああ! 熱冷ましでいいですか?」 相変わらず優秀な監察は、俺じゃない、と言っただけで察した様子だ。 「臭いがキツイのは外してくれ。飲めねぇから」 更なる指示を出した俺に苦笑した山崎は、小さく頷いて食堂から出て行った。 なるべく音を立てずに廊下を歩き、そっとその部屋の襖を開ける。 押入れから雪崩れ、こんもりと山になっている布団に突っ伏して、総悟は浅く息を吐きながら隊服のまま眠っていた。 布団を敷く途中で力尽きたのだろう。 総悟の傍にしゃがみ込んだ俺は目を覚ます気配のない体を抱えて仰のかせる。 そこへ山崎がやって来た。 「副長、薬とお粥です。あと氷嚢とか、一式持って来ました」 荷物塗れで粥を持っているとはコイツも器用だな、と感心しながら看病に必要なものを並べ始めた山崎を見遣る。 敷きかけの布団も整えられたので、総悟をそこへ転がした。 「山崎、近藤さんに言うなよ」 「解ってます。凄く心配しますもんね、局長は」 体温計を手にした俺に、どうやらすべて並べ終えたらしい山崎が答える。 「じゃ、俺はこれで…ああ、コレが薬ですから」 「おう。助かるわ」 部屋を出て行った山崎を確認して、総悟に視線を戻すと、うん、と呻き声が上がった。 俺は総悟の隊服のスカーフを抜き、シャツを肌蹴させ、まずは熱を測ることにした。 ピピッ。 電子音が知らせた総悟の体温の高さは大したものだ。 「オイコラ、総悟」 「う、ん…」 軽く総悟の体を揺する。 「一度起きて着替えろ」 「ふ…はぁ…ひじ、かた、さ…?」 俺の名を途切れ途切れに呼んだ唇は、熱の所為でまるで紅を差したようにふっくらと愛らしい。 薄く開いた目も虚ろでとろんとして――なんかコレは…イヤイヤイヤ。 「着替えろ。飯食え」 軽く頭を振って、俺は当初の目的を総悟に告げた。 ついでに総悟の単を引っ張り出してきて、本人へと放る。 もそり、と体を起こした総悟は、緩慢な動きで着替え始めた。 なんとなく其方を見てはいけないような気がした俺は、総悟から視線を外し、煙草に手をやって、今の状況では吸うわけにはいかないことに思い至る。 「別に、吸っても…イイ、ですぜ?」 声を掛けてきた総悟の方を振り返った俺は激しく後悔した。 まだ着替えの途中で、総悟は素肌に単を引っ掛けただけだ。 相当の熱なので、体までが上気してしまっていて――だからコレは…イヤイヤイヤ。 「とっとと着替えねぇか! テメェは!」 総悟の衿を掴んで着せようと引っ張った瞬間、あ、と総悟が声を漏らして、傾いだ体がぽすんと俺の腕の中に収まってしまった。 イヤ、もう、コレ。 何か試されてンのか? 「ひじかた、さん。腹…減りやした」 俺の着流しの胸元で熱い吐息と共に、総悟がそんなことを言う。 根性で総悟を体から引き剥がして手早く単を着せ、盆ごと粥を押し付けた。 「ソレ、食ったら薬だかンな」 言うと匙を口に運んでいた総悟がぴたりと動きを止める。 「やでさァ」 「やじゃねぇ」 俺は山崎に用意させた薬が入った袋を引き寄せて、中を覗き込んだ。 「糖衣の筈だから大丈夫だろ……あ? ……あァ!?」 総悟が俺を見て匙を銜えたまま小首を傾げた。 きょとん、としている総悟は、これから何をされるのか、まったく解っていないだろう。 ああ。 俺もどうなるか解らねぇ。 かちゃんと控えめな音を立てて食器を置いた総悟は、唇を噛み締めたまま上目遣いに俺を見た。 常ならばそれは多分、ぎりり、という種類の睨みになっているのだろうが、そうも潤んだ瞳で見つめられても別の破壊力があるだけだ。 「薬」 「やでさ…飲ま、ねェ…」 はあ、と大きく息を吐く総悟は、恐らく熱が上がってきている。 「ああ、飲まなくてイイ」 「へ?」 訳が解らない、という表情をしている総悟の熱を持った体は、軽く肩を押しただけで簡単に布団の上に倒れた。 「…土方さ…?」 ぱさり、と散った亜麻色の髪をゆっくりと梳いてやれば、総悟は気持ちよさそうに目を閉じる。 「まじ…飲まねェ…です、ぜ?」 「コッチから飲む必要はねぇな」 言い様、俺は総悟の唇を塞いだ。 「う、んん…っ!?」 総悟がぱちぱちと瞬きを繰り返す。 驚いて引っ込めてしまっている舌を絡め取った。 総悟の口の中は当然だが、信じ難いほど、熱い。 「んん…ん…」 暫く咥内を犯していると、突然、総悟が嫌がるように身じろぎを始めた。 「う、う――…ん、ん!」 何やら抗議をしているが、そうなるように仕掛けたのだから、抗議の理由など俺には手に取るように解る。 唇をそのままに、俺は総悟の単の裾を割って手を差し入れた。 「んんんっ!!」 やはり反応している。 だが、今は薬が問題なので、俺はそのまま総悟の下着を下ろして、後ろへ指を滑らせた。 薬。 そう。 入っていたのは座薬だった。 俺は『臭いがキツイのは飲めねぇ』と言っただけで薬全般飲めねぇとは言ってないのだが、山崎は何か勘違いしたらしい。 とにかくコレは、キスで絆している内にとっとと入れて済ませりゃいいだろう。 問題はない。 ――総悟が暴れず。 ――俺が保てれば。 だが、俺が後ろへ手をやった瞬間。 総悟の方が、もう限界だ、というように唇を離してしまった。 「あ…ひじ…か…やぁ、あっ!」 なんでだ! 「やで、さ…何っ? やぁ…んう」 「薬」 後孔へゆっくりと刺激を与えると、総悟からすぐに声が上がる。 「ひ、あ! ああ…ぅあ!」 だから、そうじゃねぇから! 「上からじゃなくて、下からすンだよ、薬」 片手が塞がっているので、空いている方の手と口を使って座薬を手早く取り出した。 早く済ませなければどうにかなりそうだ。 しかし肝心の総悟は全身に力を入れてしまっていた。 「総悟、入れるから力抜け」 ――オイこの台詞…イヤイヤイヤ。 濡らすべきなのか悩んだので、総悟の先走りを座薬に纏わせる。 そうして先端をそっと総悟の後孔に宛がった。 「…んぁ!」 「お前、薬でンな声出してどうするよ」 多少の無理は仕方ないだろう。 俺はそのまま薬を押し入れた。 「うあ…ひ、じか…っ」 違うだろ! もう少し奥まで薬を押しやらなければならないだろうと、総悟のナカで指を動かして――…マズイと思った時には遅かった。 「ひあ! やああああっ!」 思い切り総悟の弱点を突いてしまったのだ。 不意打ちを食らって達してしまった総悟を覗き込むと、熱の所為でいつもよりも赤みの増した頬をした上に、瞳には涙を滲ませて、はあはあと真っ赤な唇を薄く開けて息を繰り返している。 ああ。 も。 無理。 ナカに指を沈めたまま、熱い首筋に舌を這わせた。 「んあ、ひじか…やめ」 「無理」 先程着せたばかりの単の衿をゆるゆると開く。 「ひじかたさ…俺…熱…あって」 「無理なモンは無理」 うん。 も。 無理。 俺は総悟の首筋から胸元までを唇で辿りながら指をぐにぐにと動かした。 「う、ああ…っ! や…あ」 喘ぐ声はいつもよりも掠れていて、ああ、コイツまじで熱あンだなァと改めて思うのだが、まあ、もう、無理だ。 それは総悟も同じことだろう。 前がまた勃ち上がってきている。 「ナカ、熱ィな」 ぬめりがあるのは少し薬が溶けてきている所為か。 喘ぎの合間に「いやでさ」「駄目でさ」が繰り返され、その都度俺は「無理」を繰り返し、指が3本になった所で、とうとう総悟が観念した。 「は…あ、ひじか、たさん。もう…」 「お前、しっかりしてねぇと、薬出ちまうぜ?」 「う、くっ」 俺の言葉に総悟が反応してきゅっと指を締め付けてきた。 それにわざと抗って、ずるり、と指をすべて引き抜く。 「ひゃ、ああ…っ」 総悟の体がぶるっと震えた。 「寒いのか?」 髪をぱさぱさと揺らして総悟は頭を横に振る。 「寒いンだろ?」 素直になれない唇はただ吐息を漏らすだけで、今にも涙が零れるのではないかというくらいに潤んだ赤い瞳が、じっと俺を見つめていた。 「寒くねぇのか?」 畳み掛ける俺がそっと総悟の中心を撫で上げると、息を詰めた総悟の目からぽろ、と涙が落ちる。 あ。 やり過ぎた。 俺は総悟の腰を抱えて、本当に薬が出てしまわないように固定し、足を開かせた。 「く、ああ――…っ!」 ぐ、と腰を進めるといつになく総悟は力を入れていて、それより何よりナカが熱く絡みつく。 「薬、奥まで、入れてやっから、力抜、け…っ」 「ひじ、か…あ、やあっ!」 少しでも総悟の息がまともになれば、と暫くは動かないでいたのだが、ナカが熱くて堪らない。 「総悟。ナカ、熱ィ」 待てなくなって動き出すと、総悟からは嬌声だけが零れ出す。 ぐちゅぐちゅと音を立てるソコの薬の状態など、もうどうでもいい。 「あ、うぁ! ん…! やあ…っ」 常とは違う総悟の熱さと掠れた声は、それだけ俺を煽った。 「熱ィな、凄ぇ」 と、今の今までされるがままだった総悟が、俺の腕に爪を立てた。 「…っ!」 「ひ、ひじか…さっ」 「何だ? 気分、悪いとか、か?」 流石に動く訳にいかなくなって、総悟の前髪をかき上げてやりながら問う。 「ひじ、かたさ…熱ィの、気持ち…悪ィ、の?」 総悟は小さな声でそう言って、ぽろぽろと涙を流し、泣き出してしまった。 なんだと? 「気持ち、イイんだよ」 「だ…って、熱ィって、何回も…っ」 「熱ィのが、イイんだって」 繰り返し答えると漸く総悟は表情を和らげた――…ちょっと待て。 何か凄く可愛いコト言って泣いてねぇか? コイツ、まじ、熱ヤバくねぇ? だがちょっと待て。 ここで待ったは俺がヤバいぞ。 「総悟、もうちっと我慢、な」 「何、が……ぅああっ!」 総悟には悪いが。 無理。 俺は動きを再開させた。 動きながら総悟の中心を握り込んで上下させると、後孔がきゅうと締まって持っていかれそうになる。 「んぁあ…っ! あっ、やあ!」 真っ赤な顔をして必死に波を堪えていた様子の総悟が、小刻みに震え出した。 「イっちまえ」 「や、や…でさ…ぁ!」 「ハァ? イきた、くねぇの、か?」 訊けば、それもイヤだ、と総悟は駄々を捏ねる。 「アンタ…とっ。あ、あ…やあ…。いっしょ、が…」 ヤベぇ。 なんつー反則技。 思い切り総悟の中心を扱き上げて、ナカを突き上げて。 「く、ふああああっ!」 仰け反る体に吐き出すのはいくらなんでもと腰を引こうとした俺に、キツく足を絡ませて、離さなかったのは総悟の方だった。 「だから! 悪かったって!」 「………」 ファミレスの一角で、目の前の亜麻色が、親の敵のように次々と料理を平らげていく。 総悟は、全快も全快、それはそれは元気なものだ。 だがアレからまったく俺と口を利いてくれない。 その割りに連日俺を財布に食べ放題の飲み放題を続けている。 最初は反省していたが徐々に苛々してきて、俺は声を落とし、総悟へと言葉を放った。 「熱ィの、気持ち悪ィの?」 ステーキを食べていた総悟が、派手な音を立ててナイフとフォークを取り落とす。 それでも俺を睨み付けるだけで、まだ口を利かないので、更に俺は言葉を続けた。 「アンタと一緒が」 「それ以上言ってみろ土方ァァァ! もうヤん……あ、えと」 立ち上がって怒鳴った総悟が、途中で我に返って慌てて辺りを見回し、真っ赤になって座り直す。 「もうナニよ?」 あんな可愛かったのになァ、と意地悪く付け加えると、何故か総悟が口の端を持ち上げた。 「アンタ覚悟しなせェよ?」 「何をだ?」 俺の疑問には答えず、総悟は嫌な笑みを湛えたままだ。 やがて今日の食事を終えて、俺たちは店を後にする。 ぐらり。 目の前の景色が、一瞬、歪んだのは気のせいじゃ、ねぇだろう。 成る程。 連日俺を連れ回していた理由とあの笑みはコレだったか。 総悟は嬉々として看病セットを抱え、俺の部屋へと走ってきた。 しっかし、形勢逆転で結局啼かされるとは、どうして解らねぇンだか。 |